夜が明け、目覚めた私はマーティンが待っている寺院の広間へ戻った。
一晩休んだ事で落ち着きを取り戻したが、重苦しい気分が晴れることはなかった。
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「もう来ないと思っていた」
側に行くと、マーティンは振り返らず低い声で言った。
「貴方から逃げるつもりはないから」
私は自分に言い聞かせるようにマーティンに言った。
彼の後姿を見ていると、私が大好きだったマーティンはもういないんだ、と辛い気持ちでいっぱいになってくる。
「覚悟は出来ているんだろうな。これからやろうとしていることは弱気なままでは到底成し遂げられんぞ」
「わかっているわ。私は何をしたらいいの?」
耐えようとすればするほど悲しい思いがこみ上げてきて、声が弱々しくなる。
「大丈夫か?昨日のことをまだ引きずっているのか」
マーティンは振り向いて私を案じてくれたが、その言葉は冷たく聞こえた。
でも、感傷に浸ってばかりいても状況は変わらないし、今はマーティンの言うとおりに動くことしか私には出来ない。
「私はすぐ立ち直れるほど強くはないわ。でも、やるべきことは最後までやらなきゃいけないって心に決めたから」
「・・・いいだろう。君はManker Camoranのパラダイスに入って、アミュレットを取り返してこなければならない。だが気をつけてくれ。君が入った後、入り口はすぐに閉じてしまう。帰る方法は君自身があちらで見つけるしかない」
「Camoranを倒せば、戻れる?」
「恐らく、その可能性は高い。パラダイスの錨の役目を奴が果たしていればだが」
「わかりました、陛下、パラダイスへの扉を開けて下さい」
マーティンは頷き、魔方陣の前で呪文を唱え始めた。
小さな爆発の中から眩しいパラダイスへのワープゲートが現れた。
「我々の未来は君に掛かっている。必ず奴を倒し、アミュレットを手に入れてここへ戻ってくるんだ」
マーティンに見送られ、ワープした先の世界は幻想的な森の世界だった。
その美しい世界の本当の姿は、Camoranの力で不老不死になったMythic Dawn信者の奴隷達がDaedraに永遠の責苦を受ける地獄。
そうだとわかっていても誰もが、この世界を美しいと感じ、魅入っただろう。
だが、大事なものをあっけなく失い、孤独になった私に、そんな癒しの感情など少しも沸かなかった。
疲れきった私に残っていた唯一の感情は・・・憎しみ。
自らの欲望と妄想で信者を惑わし、自分の理想郷の想像のために世界を破滅へ導き、多くの人たちの運命を狂わせた傲慢な王がただただ憎かった。
Manker Camoranは頂上の神殿に居た。
Camoranやその娘が何かを言っていたが、私の耳にはもう届かなかった。
私が気付いた時、Manker Camoranは玉座に座ったまま息絶えていた。
呪縛から解き放たれ、Camoranの娘や息子、味方になってくれた信者もすべて死んでしまった。
神殿は崩壊を始め、パラダイスに存在したものすべてが轟音と共に闇の中に消え去っていった。
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