誰もいない部屋で、休もうと横になっても、涙が止まることがなかった。
どうしてこんなことになってしまったんだろう。
私が知っているマーティンやBurdはいったいどこに行ってしまったの?
あの楽しくて平穏だった寺院はなんだったの?
今のマーティンの頭の中にあるのは世界の秩序を早く取り戻すことだけ。
それは統治者として当たり前なのかもしれないけど、彼が焦れば焦るほど状況が悪くなっていっている気がして不安だった。
それにしても、こんなに泣いたのは久しぶりだった。
[0回]
「今日は体力測定かあ、やだなあ・・・」
まだ幼かった頃、周囲の子にくらべ私は背も小さく、運動神経もとろくてよくからかわれていた。
「みあり、8秒17!」
「50メートル走で8秒って信じられねー!普通エルフは平均4秒だぜー!」
「おっせえよなーー!わはは!」
「なにやってんだ、ボールも受け止められねーのかよー」
「どんくせーーー!あははは!」
「みありは1つもエルフらしいとこないね。にんげん学校に転校しちゃえばぁ?」
「この耳は付け耳だろー、やーいえるふもどきー!」
「きゃーいたいいたい、やめてようーー!!」
いつもいじめっ子達にいじめられていたけど、助けてくれる先生がいたのがせめてもの救いだった。
「こらっ、お前達なにをしてるんだ!」
「うわっ、やべー、先生だ」
「ちっ!あの先生怒ると魔法でお仕置きしてくるからうぜーんだよな」
いじめっ子たちが逃げた後、先生は笑いながら私を慰めてくれていた。
「またいじめられていたのかい?ほらもう泣くのはやめなさい」
「うえーん、うぐっ、うわーん!あたちなんでこんなに鈍くさくてとろいのようー、素早い普通のエルフに生まれたかったよう、うわーん!!」
「はは、鈍くさくったっていいじゃないか。それも一つの個性だよ」
「でもあたち、鈍くさいから皆からのけ者にされてるのよ。素早く動けるようになりたいようー!」
「先生はみありくんみたいな子は可愛いと思うけどねえ。大人になったらきっと君みたいなエルフが好きだっていう人が現れるはずだよ」
「そんな人いるの?エルフなのに鈍くさくて不器用で足も遅くて魔法も全然憶えられないのに好きになってくれる人なんているの?」
「いるさ、この世界にはいろんな人たちがいるからね。いつか出会える日まで自分らしく生きていけばいいんだ。努力を怠らず、諦めなければ必ず報われる日が来るよ」
「ありがと先生!あたち大きくなったら、鈍くさくてもみありのこと好きだっていう人ぜったい見つけるね!」
「うん、その調子。君は大きくなったらきっと素敵なエルフになれるよ!」
大人になって、経験を積んだ私は強くなったはずだった。
足りない力と素早さを補うため、使う武器はいつもダガーを選んだ。
苦手な魔法も、回復魔法や召還魔法ぐらいは使えるようにがんばった。
やがて私のことを好きになってくれる人たちと出会うことが出来て、私はとても幸せだった。
でも、それは突然夢の様にすべて消え去ってしまった。
残ったのは心も体も弱くなった私と、親しい人たちが亡くなっていく悲しい現実の世界だった。
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