海でも眺めながら話をしようか、とマーティはMiariと海岸まで歩いていった。
ベンチに2人腰掛けて、最近の調子はどう?などしばらく雑談し、やがて自然とBurdの話になり、マーティはしみじみと言った。
「Burdは根っからの軍人気質だし、軍人が似合っているよな。僕も軍に残っていたら、また違った人生を楽しんでいたんだろうかって、考える時があるんだ」
マーティはかつてBurdと同期で軍に入り、部隊の食事係として所属していたが、クリーニング店を経営していた父親を病気で早く亡くし、店を継ぐ為に軍を数年で辞めざるをえなかった。
Miariと親しくなったきっかけは、彼女が客として店を訪れるようになってからだった。
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すでに民間人だったマーティからすれば階級は関係なく、お節介焼きで人懐っこいマーティ自身の性格も手伝い、人見知りが強いMiariの良き相談相手になっていた。
MiariはBurdが任務を受けて、不安な気持ちになっていることを打ち明けた。
「で、君は彼が任務を受けたことが不服なのか?」
「ええ、でも決定したから放棄させることはもう出来ない。私、どうしたらいいのかわからなくて・・・」
「不安が心を苛んでいるようだね。じゃあ、今から言う僕の質問に素直に答えてほしい。君はBurdがいなくなると知ってどう感じた?」
「不安に感じて・・・寂しいと思ったわ」
Miariはちょっと考えて言った。
「それだけかい?」
「うーん、辛い・・・かも」
「辛い、か。じゃあさ、もし僕が急にいなくなったらどうする?」
「マーティがいなくなったら?そんなことになったら心配で捜すわ」
答えを聞いて、マーティはきょとんとした。
「あれ?Burdの場合は寂しくて辛いと感じるだけで、僕の時は捜してくれるのかい?」
「不安だけど、Burdは任務で不在になるってわかってるし、私は待つしかないもの」
マーティは顔をしかめた。
「・・・君は肝心な事がわかっていない。今話した状況はどちらも同じなんだよ」
「どういうこと?」
「僕とBurdは身を置く環境は違っていても、不慮の事故に遭ったり、朝『行ってきます』と言った言葉が今生の別れの言葉になるかもしれない可能性が0じゃないのは変わらないんだ。君自身もそれは同じだろ?」
「いつ何があるかわからないってことね・・・」
Miariをじっと見つめながらマーティは尋ねた。
「僕といる時の君は素直なのに、Burdの前では違うそうだね。嫌いだからそういう態度をとるのか?」
「違う・・・嫌いじゃない。私にとって軍曹はなくてはならない人よ。でも、見透かされたくない。私は彼の上官なのに優しく接して、それが他の者に知られたら、私は舐められて誰も従わなくなるわ」
Miariは顔をそむけた。
「・・・プライドを捨てろとは言わないよ。ただね、あいつは屈強な男だが、人間であることには変わりはない。きついことを言われれば傷つくし、優しい言葉をかけられれば喜ぶだろう。それが好きな相手からなら尚更だよ」
マーティの言葉を聞いたMiariは首を横に振った。
「・・・ごめんなさい、それがわかってても私、素直になれない。ダメよ」
「僕の前では素直じゃないか」
「マーティはお友達だし、話しやすいから普通にお話できるわ」
Miariはベンチから立ち上がって、遠く目前に広がる水平線をぼんやりと眺めた。
「君は恋人よりも友人の方が話しやすいと言うのか・・・はは、わかったぞ」
背後でマーティが納得したように言った。
「わかったってなにが?」
「君は心を開いてBurdと接することが出来ていないだけだ。ね、1度だけでもいいから、素直に言いたいことをBurdに言ってみたらどうかな?」
「言いたいことって、何を言うの?」
Miariは振り向いて聞いた。
「君が彼に対して心で思っていることさ。それは僕が説明することじゃない、自分で考えて言葉にしないとね」
「・・・むずかしいわね」
「むずかしくないよ。今の素直な気持ちを大事にして、その表情でBurdと話せばいいだけの事さ」
「やだ、こんな顔をBurdに見せるの?」
Miariは照れ臭そうに笑った。
「そうそう、その顔だよ、見せてあげるんだ」
Miariはマーティと話したことで心が解され、優しい気分になっていた。
「ありがとう。マーティと話しているとまるで神父様に相談してる気分になって、心が安らいでくるわ」
「それは嬉しいね。悩みを聞いたり説教するのが僕は好きだから、神父になりたいという夢もあったんだけどね」
マーティは楽しそうに微笑んだ。
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