「易々と武器を奪われるような隙だらけの男に、婚約者扱いされるなどもっての他だ」
将軍は軍曹に向かって銃を構えたまま言った。
軍曹は動じることなく、将軍に言い返す。
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「キスする時も隙を見せるなと言うのか、hahaha。ただ恥しくて照れているんだろ」
「バカを言え、照れてなどおらん。そもそも婚約の話は父が勝手に言い出しただけで私は認めていない」
将軍は銃口を向けたまま言葉を続けた。
「いいか軍曹、二度と私の前で隙を見せるな。軍人たる物、気を緩めた時が最期だ」
「さすが将軍ともなると婚約者相手にも手厳しいな。好きな相手の前でも隙を見せるな、ということだな」
「・・・そうだ、隙は命取りに繋がる。初対面の相手に対して挨拶代わりに空砲を撃つぐらいの優勢を常に保て」
将軍は銃口を上空に向けて撃つような構えを見せた。
「そんな事したら誤解されて敵認定されかねないような気もするが・・・いや、独り言です、失敬。今後肝に命じておきます。では自分の武器を返して頂けますかな」
「うむ、よかろう」
将軍は銃を軍曹の前に差し出した。
「ありがとうございます」
軍曹は礼を述べ、ゆっくりと手を伸ばして銃を受け取ろうとした。
「軍曹ッ!隙を見せるなといっただろうがッ!」「うおっ!!」突然将軍は大声で罵倒し、軍曹に回し蹴りを放った。
軍曹はとっさに上半身を捻らせ、間一髪のところで蹴りを避けた。
「お前は新兵かッ!?二等兵から出直して来いッ!!!」将軍は罵声を浴びせ、軍曹に武器を投げつけた。
当たって跳ね返った銃は、ガシャンと音をたてて地面に落ちた。
将軍は胸を反らせ、顎を突き上げ軍曹を睨み付けた。
「モタモタと受け取るなッ!銃はすぐに奪い取れ!油断大敵、常に我が身を守り、チャンスを逃さず攻撃に転じろッ!!」
いくら自分の精神力が強くても、気持ちを寄せている相手に怒鳴られてばかりでは、さすがに気分が落ち込んできた。
「・・・やれやれ、今日は将軍のご機嫌が麗しくない様ですな」
「だまれ軍曹、男が軟弱な言葉など吐くな」
将軍はぶっきらぼうに言い放つ。
「いいか、先ほども言ったが、私は婚約の話は一切認めない。これだけは父の命令でも聞くわけにはいかん」
「なぜなんだ、そんなに認めたくないのは俺が嫌いだからか?」
軍曹が尋ねると、将軍は顔を曇らせた。
「嫌いだと言われたいのか」
「ああ、どうせならはっきりと言ってもらいたいね」
将軍はサングラスで隠された軍曹の目を見つめた。
「では言ってやろう。婚約者がどうだと言いながら、帰れないかもしれない危険な任務を請け負うような大バカな男など私は大嫌いだ」
吐き捨てると、将軍はフンッと顔を背け軍曹の横を通り抜けた。
「Hassildor将軍、どちらへ」
「・・・本部に戻る」
一言だけ言い残し、将軍はBurd軍曹を残したまま去っていった。
軍曹はその場で将軍を見送り、ふうっと溜息を付いた。
「素直じゃないな・・・そんなだから、皆から怖がられて男が寄り付かないんだぞ」
軍曹は、将軍の本当の言葉の意味を思うと、辛辣な言葉を吐く彼女の態度がとても滑稽に思えたが、それが可愛くも感じる。
「俺は必ず・・・旅立つ前に君に認めさせるからな」
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