「見れば見るほど不思議な石だな・・・」
MiariとBurdが武器庫を出て行った後、一人残った軍曹はSigil Stoneを興味深く観察していた。
[0回]
石は周期的に赤い光を放ち、耳を澄まさなければ聞こえない様な小さな音を共鳴させている。
今まで見たことがない鉱物で、怪しげな光を放出しているというのもあり、有害な放射線を出していないかと不安になったが、Miariが素手で渡してくれたから安全だろうと好奇心には勝てず、手に取って眺めた。
手に取るとそれは冷たく、熱は感じられなかった。
軍曹はこの石を研究サンプルとして持ち帰れないだろうかと考えた。
しかし、こんな珍しい資源が大量にあるとは思えない。
彼女はいっぱい取ってくる、と言っていたが、サンプルに出来るほど持ってきてくれるだろうか。
「戻りましたぞ軍曹殿」
背後から呼ぶ声がして振り向くとBurdが戻ってきていた。
「おお、待ってたぞ兄弟」
石を手にしたまま振り返ると、Burdが軍曹の持っているSigil Stoneに気付いてたずねて来た。
「それはSigil Stoneではありませんか。なぜ軍曹殿か持っておられるので?」
「兄弟が居ない間に彼女が来てね。燃料が不足しているので代用がないか尋ねたらこれを薦めてくれたんだ」
「ほほう、その石には燃料としての利用方法もあるんですか?剣や鎧に付加価値を付ける調合用の材料としてだけ使われるのかと思っていました」
「付加価値を付ける?それはいったい?」
「剣に火や氷の効果を付けるんですよ。自分は技術を習得してないので詳しくは知りませんが・・・そうそう、持ってきた刀をそこに置いていたので先に見てもらえますかな?」
Burdは床に置いた大量の刀を軍曹に見せた。
「殿下の為に刀が大量に必要だとブレードに頼んで回ったところ、皆が総出で捜し出してきてくれましてな。どうです、足りそうですか?」
「ありがとう兄弟、これで十分だ。あとは溶炉を稼動させる燃料が届くのを待つだけだな。それまでケースに保管しておこう」
木箱に刀を収めて蓋を閉めると、Burdが燃料の事を聞いてきた。
「軍曹殿、燃料が届くというのはもしやアレがSigil Stoneを他にも持ってくるということですかな?」
「そうさ。もっと必要だと言ったら、いっぱい取ってくると言って外に行ってしまったよ」
Burdは感心した顔をした。
「Sigil Stone、いや、殿下の物干し台の為に単身でオブリビオンゲートに乗り込むとはさすが勇者ですな」
「オブリビオンゲート?そいつは高級宝石専門店か何かか?」
軍曹の奇妙な返答にBurdは目を丸くした。
「ほ、宝石専門店?ああ、そうでした、軍曹殿はオブリビオンゲートの事を知らないんでしたな。ゲートとはこの世界を乗っ取ろうとしている魔物たちの異世界とこの世界を繋げている門なのです」
「なんだって!?」
「私も何度かお供をさせてもらいましたが、オブリビオンゲートの中は溶岩と廃墟そして不気味な魔の塔とまさに地獄絵図の世界。恐ろしい形相をした魔物たちが容赦なく襲ってくるのです」
「なんだって!!」「Sigil Stoneはオブリビオンゲートを制御している塔の最上階にあります。そこに辿りつき、石を入手するのは並大抵のことでありません。まさに命がけです」
「なんだって!!!!」そんな危険な場所に石があるとは思いもしなかった軍曹は同じ言葉を3回も繰り返してしまった。
「俺はなんて危険な任務を彼女に任せてしまったんだ!何かあったら君やマーティに申し訳が立たない・・・!援護に向かわねば!」
「援護?心配しなくても大丈夫ですよ、あの貴公なら2,3個、いや10個ぐらいは一人で軽く取ってきますから」
「おいおい!?いくら戦い慣れた者といっても女なんだぞ!?それもか弱いエルフのお嬢さんだ!1機で敵の航空師団100機を軽く撃墜させる俺の所の将軍とは違うんだ!!」
「おお、それはすごい。向こうの貴公も相当な勇者なのですな」
「感心している場合か!?俺は戦闘機で援護に行って来る!」
軍曹が扉へ向かおうとした時、丁度Miariが戻ってきた。
「ただいまぁ~」
「!」
「ほら、無事に帰って来ましたぞ」
Miariは自分の身長近くある大きな袋を担いで階段を降り、袋をドスンと床に置いた。
中で石がガラガラと音をたてる。
「よいしょっ!と・・・ふぅ~重たかった!取りに行くのは簡単なんだけど、大量に集めると重量との勝負になるのよね」
Miariは軍曹に心配をかけていたこともつゆ知らず、嬉々とした顔で袋からSigil Stoneを取り出して見せた。
「Burd、はいこれ、いっぱい持ってきたわよ。片っ端から視界に入ったオブリビオンゲートに特攻してSigil Stone頂戴して来たから多分100個ぐらい袋に入ってるわ。これで足りるかしら?」
「・・・・」
軍曹はさっきまでのドレス姿だったエルフが勇ましい姿で地獄から余裕で生還したギャップに動揺し言葉が出なかった。
Burdが自分をポカンとした表情で見てるのに気付いたMiariは慌てて言い訳した。
「やあねえ、勘違いしないで。いくつかは前から家に保管していたSigil Stoneよ。これを全部今取りに行ったワケじゃー・・・」
「無事に戻ってきてくれて良かった!!!!」「ほえ?Burdどしたの?」
いきなり抱き寄せられ驚いたMiariの手から石がポトリと落ちた。
(軍曹殿、そこまで心配してくれていたとは・・・)
Burdは自分も少しは見習わなければいけないなと軍曹を見ながら思った。
その時、扉が開いてマーティンが入ってきた。
(物干し台製作は順調だろうか?楽しみで待っておれん。こっそり覗かせてもらおう)
「?」
「おや?扉が開く音がした気がしたが・・・気のせいか」
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