しばらくして寺院の中に戻ると、テーブルの上にマーティンが用意したぜんざいが並べられていた。
3人分のぜんざいからほかほかと湯気が立ちあがり、オモチがぽこっと浮かんでいる。
「わー、おいしそう!」
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温かいぜんざいを目の前にして、思わず涎が出そうになる。
「この甘い香り、たまりませんな!さっそく頂きましょう、と、おや?殿下がいらっしゃらないようだが」
マーティンの姿が見当たらない。
どこに居るのだろうと広間を見回すと、暖炉の前で椅子に座っているマーティンを見つけた。
どうしたのか、マーティンは暖炉の火を見つめたまま動かない。
「マーティはよほど寒がりなんだな。暖炉の側にいないと寒くて仕方ないのか、HAHAHA」
軍曹が笑うと、Burdは真面目な顔で首を横に振った。
「違いますぞ軍曹殿、殿下は統治者として国の行く末や民を思い、憂い悩んでいるのです」
マーティンは一向に席を立とうとしない。
私たちはマーティンのところへ行って話しかけた。
「殿下、戻りましたぞ」
「まーくん、お待たせ!一緒におぜんざい食べましょ」
マーティンは浮かない顔をして私たちを見上げた。
「・・・おかえり。君たちの分はテーブルの上に用意しているから食べてくれ」
「殿下はもう召し上がられたのですか?」
「いや・・・私は後で頂くよ」
マーティンは大きくため息をついた。
肩を落とし、表情も声も暗く沈んでいる。
私はどこか具合が悪いのではと心配になった。
「まーくん、具合が悪いの?」
「少々気分が落ち込んでね・・・」
「殿下、何かお悩みですかな?」
Burdは畏まってマーティンに尋ねた。
「乾かんのだ」
「はぃ?」
「こう雪ばかり降られ、寒くては洗濯物が全然乾かん・・・はぁぁ」
「あのう、殿下、洗濯物が乾かなくて落ち込んでいるのですかな?」
Burdはおずおずと尋ねると、マーティンは頷いて、椅子から立ち上がった。
「せめて室内で干すことが出来れば・・・。広すぎて物干し竿をかける場所がないのだ。洗濯物を乾かすいい方法はないものか・・・」
マーティンは暖炉の火を見つめながら独り言をブツブツと呟いている。
「・・・・」
「兄弟、ちょっと話があるんだが、いいか」
固まっているBurdに軍曹が声をかけた。
「あ、ああ、はい、なんですかな」
軍曹に呼ばれてBurdは我に返った。
そして軍曹は私に向かって言った。
「すまない、俺達は向こうで話をしてくる。マーティは悩みを抱えているようだから、君が相談にのってやってくれ」
「だそうです、貴公。すみませんが殿下のこと頼みます」
さすがのBurdも洗濯物のことで悩んでいる殿下にどう対処すればいいのか困ったらしく、罰が悪そうに苦笑した。
「うん、わかったわ。二人ともおぜんざい先に食べておいてね」
先に頂いておきます、と二人は側を離れていった。
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