マーティンは何を思ったのか軍曹を寺院内に招き入れてしまった。
初めBurdは素性のわからない人間を寺院に連れ込むなど安易な行動は止めて下さいとマーティンをたしなめたが、どうしても軍曹を中に案内すると言って聞かなかった。
[0回]
しばらく言い合っていたが、悪い人間ではないのは顔を見ればわかるのだ、彼を信じるなと言うのなら、お前も信じないぞ、と殿下から詰め寄られたのが最終的に効いて、Burdは折れてしまった。
マーティンは自分と軍曹の2人だけの対話を望み、人払いしたためBurdも他の人たちもみな蚊帳の外に置かれてしまった。
私はというと軍曹が怖くて、顔を一度もまともに合わせることなくずっと離れて遠巻きに見ていた。
顔はBurdそっくりみたいだけど、何かが違うので私には別人に見えて仕方がなかった。
(まーくんに何もなければいいけど・・・)
それに目を隠している怖そうな黒い眼鏡と、杖から放たれた爆音が耳から離れず、いつまたあの魔法を使われるかと思うと怖くて近寄れなかった。
「そんな姿を見せるなど貴公らしくないですな。あの男が怖いのですか?」
「きゃ!」
急に話しかけられびっくりして振り向くといつの間にかBurdがいた。
柱の影に隠れて見ていた私に気づいて声をかけてきたらしい。
「Burd!ど、どーして殿下はあんな怖そうな人と平気で話せるの!?」
私はおどおどしながら尋ねた。
「怖いんですか?顔も声も私とそっくりじゃありませんか」
少し笑いながらBurdは答えた。
「顔がそっくりでも中身まで同じじゃないでしょ?それに大きな音立てる人は私苦手なの!><」
「貴公、音に敏感ですからなあ・・・ですが怖がる必要はありませんよ。あの者のことは殿下を信じてお任せしておけばいいんです。もしなにかあっても自分が対処しますから」
不思議だった。
Burdは怖くないんだろうか。
一番怖いと感じてるのはそっくりな自分が現れた当人のBurdのはずなのに。
「Burd、あの奇妙ないでたちの客人はいったい何者なのかね。陛下に側に来ないよう私も命じられていて心配でな」
マーティンが連れて来た客を訝しげに見ていたジョフレが、Burdに近寄ってそっと尋ねてきた。
「ジョフレ殿、心配には及びません。殿下にすべてお任せしておけば大丈夫ですし、自分も彼は危険な人物でないと保障します」
Burdが説明するとジョフレは少し安堵した表情になった。
「そうか、君がそう言うなら私は干渉せずにいよう。しかし近頃の陛下にも困ったものだよ。御同友が増えて楽しそうなのは良いが、御自分の意思優先で行動されることが多く、さすがに心配になってきてな」
「おや、ジョフレ殿は完全放任主義かと思っておりましたが、しっかり殿下のことを心配されておられたのですな」
Burdは意外そうな顔をした。
「もちろんだ、あまり陛下に気を使わせたくないので見て見ぬフリで御守りしているがね。君らが陛下のお側に付き添ってくれているから助かっているよ」
私はふとマーティンの方を見ると、さっきよりも親しく2人が話しているように見えた。
「ねえ、見て。なんだか2人、仲良さそうじゃない・・・?」
「ほほう、殿下もすごい方ですな。もうあんな近距離で話せるほど打ち解けあうとは。交渉力のなせる業でしょうな」
Burdは感心していたが、ジョフレはそうは思わなかったらしい。
「ううむ、陛下は人懐っこいため警戒心がイマイチ欠けている面がある。気を許して近づいてしまっただけでないならいいのだが」
そして私も別の目でマーティンの行動を見ていた。
マーティンって、ただ軍曹がBurdそっくりだから親近感を覚えて油断してるだけなんじゃないかしら、と。
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