今日も大空は晴れ渡り、とても良い天気だ。
平和で平凡な日々が続くことは退屈かもしれないが、とても幸せなことだと私は思う。
[29回]
私は地方に住む一介の農夫である。
私は小さな農園を営んでいた親の後を継ぎ、作物を育て、それを商売の糧にすることで細々と生活していた。
種を植え、伸びた芽を慈しみ、作物を育てあげる。
天候に左右されやすい仕事だが、自分の性にあっているのかまったく苦痛ではなかった。
天候云々といえば、もう一つ私が日課にしている大事な作業があった。
そう、この家事だけはだれにも譲れない。
天気の良い日に水で清められた洗濯物を天日に干し、穢れを浄化するという作業は、まるで自分が神父にでもなったかのような錯覚さえ覚える。
ロープに下げられたいくつもの洗濯物たち。
皆が乾くのを待ち、再び着用されるのを心待ちにしているのが私にはわかる。
一通り作業が終わった後は、読書の時間である。
私は農作業の傍ら、読書をするのも大好きである。
愛読書は料理関係から宗教関係までと幅広い。
読書に没頭していると声が聞こえた。
「まーくんー!まーくんどこー?」妻が私を探しに来たようだ。
私の妻は、とてもおしとやかで美人な女性である。
もう一度言うがとてもおしとやかで美人な女性だ。
そんなおしとやかな妻が、ひょんなことで怒りだして、我が命の危機を感じた時もあるが、あくまで記憶の片隅にある程度である。
おしとやかな女性のはずだが、危機が迫ると奇妙な形をした短剣を振り回して見事な立ち回りを見せたこともあったような気がするが、たぶんそれは私の見た夢だろう。
「なんだい、わが妻よ」
「まーくんたら私のことを妻だなんて呼んじゃってなんだかハズカシー☆友って呼んでよ」
「ははっ、わが妻を友と呼ぶ方がおかしいじゃないか」
「やだもーまーくんたらテレるう~」
妻は恥ずかしそうにうつむいている。
こんなおしとやかな妻が昔暴れん坊将軍だったような記憶が一瞬蘇ったが、そんなわけがあるはずがない。
こうして現実の私は一軒の農家で静かに平和に暮らしているじゃないか。
「あっ」
妻が突然驚いた声を上げた。
「どうした?」
「やだー雨が降ってきたわ」
我にかえって辺りを見回すと、辺りはどんよりとした雲のせいで薄暗くなり、雨がポツポツと降り出していた。
「大変だ!!」
雨は農作物にとっては恵みになるが、洗濯物にとっては大敵である。
濡れてしまった洗濯物はまた洗いなおして乾かさねばならない。
そんな面倒なことになるまえに、急いで取り込まなくては!!
私は妻を放り出し、大慌てで干された洗濯物のところへと走っていった。
ん?なんだ?
なにか黄色いのが・・・
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