マーティンに見せようと空中に放置したまま忘れていた浮遊塔のせいで、寺院に一騒動起こさせてしまったことを知った私は皆に平謝りに謝った。
でも、マーティンはお陰で楽しめたからいいよと笑ってくれ、ブレードたちも笑顔だったが、唯一Burdだけ顔を引きつらせたまま、二度とこんな事を殿下の前でしないで下さいっと涙目で怒られた。
なんだかんだありつつ、クラウドルーラー寺院にはいつもの日々が戻ってきた。
心地よい日光の下で、マーティンはいつもの様に洗濯物を干している。
真っ青な空の下で洗濯物を干すマーティンはとても楽しそうだった。
この世界に戻り、心が落ち着いてくると、もう一つの世界での出来事は夢に思えてきた。
でもあれは現実だったのよね・・・。
マーティンの姿を見ていて、もう一人のマーティンのことを私は思い出していた。
彼と一緒にいた時、こんなゆっくりとした時間は過ごせなかった。
あのマーティンにも、楽しい時間を過ごさせてあげることは出来なかったのかな、とぼんやり私は思った。
「どうした友よ、ぼーっとして(^^」
声を掛けられてハッと我に返った。
いつの間にかマーティンが目の前にいた。
・・・マーティンに、あの話をしてみようかしら。
簡単にはわかってもらえないだろうけど、話しておくべきかもしれない。
[1回]
「まーくん、話したいことがあるの。昨日の夜遅く私は寺院に戻ってきたわよね」
「ああ、真夜中を過ぎていたと思う」
「私、どれくらい寝ていたかしら?」
「8時間ぐらいじゃないか?でもどうしてそんなことを聞くんだい?」
あんなに長かった時間を過ごしたのに、こちらではたった数時間しか経っていないなんて・・・。
「マーティン、その8時間の間に、私が別の世界に行ってたって話したら信じてくれる?」
私の言葉を聞いて、マーティンは変な顔をした。
「面白いことを友は言い出すんだな。どんな世界だったのか興味があるから話してごらん」
こっちで話をしよう、と塔が見える所にマーティンと私は移動した。
私は目が覚めたと思ったら、帝都の牢に収監されていたこと、Kvatchに行って別の顔をしたマーティンに会った事、そして話すべきか迷ったけれど、Bruma防衛やその後のこと、マーティンの運命も話した。
マーティンは面白い夢だな、とさすがに話だけでは信じようとはしなかった。
しかし、戻れないと諦めかけた最期にSheogorathが現れて元の世界に戻れたと言うと、マーティンの顔色が変わった。
「あの爺さんが現れたのか?そんな夢を友に見せるということは、まだ懲りていなかったのか」
マーティンは顔をしかめた。
「私も最初はあの世界は夢だと思っていたけど、どうしても覚めなかったしすごくリアルだったのよ。夢なんかじゃなくて別の世界に私はいたんだわ」
「別の世界というと軍曹がいた世界みたいな感じか?」
「ううん、それとはちょっと違う。この世界と同じだけど、また別の運命を辿った世界じゃないかしら。ここにいる皆が居たけど、Burdはブレードにはならなかったし、マーティンはあまり余裕がなくて・・・」
「うーん、それは友が見た夢じゃないか。Shrogorathが現れたのは引っかかるが、まあ、悪い夢を見ただけだろう」
やはりマーティンは現実の話だとは思ってないようだ。
でもあの世界は、どこかにこの世界と繋がりがある気がした。
油断していたら、この世界も同じ運命を辿りかねない予感がする。
マーティンに夢じゃないとわかってもらう方法はないかしら。
「そうだわ!まーくん、寝室のベッドの下を覗いて見たことある?」
「ベッドの下?いや、無いが」
「向こうの世界でマーティンがダガーを私に貸してくれたの。世界が同じなら、ベッドの下に今でもそれが置いてあるはずよ!」
「はは、誰かさんがベッドの下にDaedricダガーでも隠したのかな(^^」
茶化すマーティンにいいから来て!><と、怒りながら手を引っ張って部屋に向かった。
「ベッドの下ってこの辺りか?」
「うん、確かそう。マーティンがその辺りからダガーを取り出してたわ」
マーティンはしゃがみこんでベッドの下を探り出した。
「どれどれー・・・何も無い様だが・・・おや?何か手に当たったぞ」
マーティンはそれを拾い上げた。
「あ・・・!」
やはりそれは、あのダガーだった。
「それよ!マーティンから貰ったダガーだわ!」
「ふむ、珍しい刃のダガーだな。だがこれは友がー・・・」
マーティンはMiariが置いたんだろうと言うつもりで振り向いた。
しかし、Miariの真剣すぎる表情を見て、マーティンは違うと直感した。
マーティンはベッドにダガーを置いて視線を落としながら呟いた。
「もし、君が見た夢が私達の別の運命を辿った別の世界だとしたら、なぜ私達の運命は変わったんだ・・・?」
「Sheogorathがそれっぽいことを言っていたわ。この世界は『誰か知らんが大バカ者が運命を変えた』って」
「ふむ・・・」
マーティンは何か思い当たる節があったらしく、クックっと笑いをかみ殺した声を出して言った。
「運命を変えた大バカ者か。だとしたらそれはあの爺さん本人だよ。気付いてないんだろうな、自分がその大バカ者だってことに」
「Sheogorathが?なぜなの?」
「その世界とこちらの世界で、決定的に違うものがあるが、それが何かか君はわかるかい?運命が変わったとすれば、その違いが大きくなりすぎたことが要因だよ」
私は意味がわからなかったので何も言えずポカンとしていると、マーティンは少し照れた顔をして言った。
「私はね、昔Sheogorathに君を連れ去られそうになった事件のおかげで、君を好きだという自分の気持ちに気付けたんだ。あの爺さんが現れなければ今、君とこうして一緒にはいられなかったんじゃないかな」
「えっ?つまり、運命が変わったのは、マーティンが私を好きになってしまったから・・・なの?」
「好きな相手がいれば、生涯添い遂げたいと願うのが当たり前だろう?あの事件が起こる前までは、私は早く父の仇を討ち、世界の秩序を取り戻さなければならないとばかり考え、気が焦っていた。今は・・・このままでいいと思っている。Burdやジョフレが聞いたらいい加減だと怒るだろうな。だから私がそう思ってるなんて言ってはダメだぞ、ははは」
「まーくん・・・」
私と一緒にいたいと思ってくれた心が、マーティンの運命を変えたの?
そ、そんなことで、変わってしまったの?
「わ、私も、何があってもまーくんとずっと一緒に居たいって思ってたからがんばってこれたのかも・・・」
お互い気恥ずかしくなってしまい、顔を背けてしまった。
Sheogorathは、未来はもうわからないと言っていた。
悲観的な未来なんて望む人はいない。
それなら、幸せな未来を目指して皆の力で作り上げていけばいい。
幸せな未来こそ、もう一人のマーティンの望みでもあったのだから。
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