女性客はテーブルで黙々と朝食をとっている。
コーヒーを飲み、ふうっと小さく一息ついて、おもむろに傍らのバッグからノートを取り出し、メモをとり始めた。

後姿から漂よってくる上品な雰囲気は、明らかに普通のBrumaの住民ではない。
ふだん男勝りな強い女性ばかりに囲まれていたBurdにとって、実にその女性との出会いは新鮮さを感じさせた。
(あのような若く上品な女性がこんな所にいるとは・・・)
Burdの心に、声をかけてみたいという思いが沸き上がってきた。

あんな女性と知り合えたらきっと幸せになれるのではないか。
浮き立つような気分になってきて、自分の中で一方的に妄想がどんどん膨らんでいった。
[0回]
「・・・さま」
・・・独身かな?恋人はいるのかな?
「お客様!」
「は、はい!」
店員が呼ぶ声にBurdはハッと我に返った。
「コーヒーがご用意出来ましたよ、どうぞ」

カウンターを見ると、注がれたばかりのカフェオレが置かれていた。
「おお、すみません、いただきます」
Burdがコーヒーを受け取ろうと手を伸ばした時、ふわっと柑橘系のさわやかな香りが漂った。
香りがした方をふりむくと、席にいたはずの女性が大きなバッグを肩に下げて立っていた。

横顔をまじかで見たBurdの心臓がドキッとした。
女性は横目で軽くBurdに会釈して、微笑みながら店員に向かって言った。
「ごちそうさまでした。今日頂いたコーヒー、とても美味しかったです」
「あら、お客様にそういってもらえると嬉しいです」

店員は笑顔で女性に答えた。
「また来ますね。それでは」
「ありがとうございました。またいつでもいらっしゃってくださいね」
女性は頭を軽く下げて挨拶し、店を出て行った。

ほのかな柑橘系の香りが、まだその場に残っていた。
Burdは声をかけようと思っていたことも、飲み物を受け取ることもすっかり忘れ、女性が出て行った扉をぼーっと見ていた。
「お客様、どうされました?先ほどからぼんやりされているようですがどこか具合でも・・・」

「あ、ああ、すみませんな、なんでもありません」
Burdは恥ずかしさを隠して代金を支払い、受け取ったコーヒーと食事を持って席に着こうと、さっきの女性がいたテーブルの横に歩いていった。
「おや?」

Burdは、女性が座っていた席の下に、丸いものが転がっているのを見つけた。
「なんだこれは」
拾い上げるとそれは果物だった。
(これはオレンジ?にしては形がオレンジっぽくないな、オレンジというより・・・みかん???)

みかんはこの辺りの寒い地域で取れる果物ではない。
これを持っていたということは、かなり遠方から来たのではないだろうか。
「どうやらさっきのお客様が落としていったみたいですね」
みかんを拾い上げてどうしようかと考えこんでいたBurdに店員が話しかけてきた。
「出て行ったばかりだからまだ近くにいるかもしれませんね。私は店があるのでここを離れられないので、すみませんがお客さんが追いかけて渡してきてもらえませんか」

「え?」
店員はウインクした。
もしや、この店員は自分がさっきの女性に気があるのを気づいていたのだろうか。
Burdは思わず顔を赤らめたが、これはまたとないチャンスだ。
大慌てでパンとドーナツを一口でほおばり、カフェオレを飲み干すと、Burdは店員にお辞儀をして店の外に飛び出した。
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