「マ、マーティン、それは違う。惑わすなんてそんなこと絶対ないわ!私は怖かっただけなの!貴方との距離が近くなればなるほど怖くなって・・・」

「怖かっただと?それが君の言い分か」
マーティンの目の色が変わった。
「怖がっていたということは、私のことが嫌いだということだな。私のことが好きなら、怖いなどと思わないはずだ」

「え、私はマーティンのこと、す、好きよ?好きだけど怖くなることだってある・・・わ」
彼の目からはいつもの優しい眼差しは消えていた。
[0回]
イライラとした表情で私に向かって言葉で責めたててくる。
「私のことが好きだと?君が好きだったのは皇帝としての私ではないのか?」

「皇帝・・・として?そんなの関係なく私、まーくんが好きだわ」
「よく言うよ、私が皇位を継ぎたくないと打ち明けた時、困惑した顔を友はしていたじゃないか」
「あ、あんなこといきなりマーティンの口から言われたら困るにきまってるじゃない!」
「私から逃げる理由はそれなんだろ」
「逃げてたのは謝るわ!でも逃げる理由ってどういう・・・」

「わかりやすく説明してやろうか?君は私の皇位が目的で近づいたが、当てが外れてしまった。皇帝になるつもりがないただの男など相手にしたくないから、君は私に構うのが嫌になって避けるようになったんだ」
「違う!貴方が皇帝でもそうじゃなくても関係ない!マーティン、貴方自身のことが好きなのよ!」
「うるさい、黙れ!!」マーティンに大声で怒鳴られ、私は思わずたじろいだ。

「・・・君なら私を1人の人間として見てくれていると信じていた。だが、君が見ていた私は、皇帝としての私だった」
その言葉に私はハッとした。
「マーティン、私が貴方を宮殿に案内した時、悲しそうな顔をしたのは、そのせい・・・?」
「皇帝なら私じゃなくても、どんな人物でも必要とされて当たり前じゃないか。私は皇帝としてではなく、私自身の存在の証を得たかったんだよ!」

・・・ようやく私は自分の犯した失敗に気がついた。
私のやったことはマーティンの心を傷付けただけだったんだわ。
なんてこと!
もっと、もっとよく彼のことを考えておけば、悲しませることなんてなかったのに!
マーティンは恨み篭った目で私を睨み付けた。
「日記を私に見せられない理由は、私を騙して嘲笑っている内容ばかりだからなんだろ。そんな物を私に見られるわけにはいかないからな。納得したよ」

「そんな酷いこと書いてない!見せたくないのは貴方のことばかり書いてて恥ずかしいし、大体、日記は人に見せるものじゃないわ!」
「そうだな、普通は見せない。だが私は君にだけは見せたぞ?信用していたし、君には本当の私を知って欲しいと思ったからだ。私は君に心を許していたのに、君はそうではなかった!」
「マーティン!どんなに親しくても、好きでも、隠したいことはあるのよ!日記は見せられないけど私は貴方のことが本当に好き、大好きなのよ!だからそんな酷いこと言わないで!!やめて!」
「・・・詭弁はもういい。私がどんなに優しく接しても怖がられるのならもうお手上げだ。君が本当に好きなのは伯爵とやらだろ。私が怖いなら彼と仲良くすればいい・・・」

「まーくん、違う、違うんだってば、私、伯爵よりもまーくんのことが・・・」
「黙れ!私はもう君の声は聞きたくないし、顔も見たくない!」
「まーくん!誤解よ、私の話をちゃんと聞いてよ!」
「馴れ馴れしく呼ぶな!君の言葉はすべて偽りだ!これ以上惑わされるのはもう沢山だ、ここから出て行ってくれ!!」

「マーティン、ちがう・・っマーティン・・・ちがうんだってばぁ・・・っ」
私がどう訴えても通じないマーティンへの想いに悲しくなり、涙がボロボロと溢れ出した。
しゃくり上げながら懸命に違うと言っても、マーティンはまったく聞く耳を持たない。
「得意の嘘泣きで私を騙そうたってそうはいかん、目障りだから早く出て行ってくれ」
マーティンが冷たく言い放ったその言葉で、私の心の糸がプツンと切れた。

「まーくんのばかぁっ!!勝手なことばっかり言わないで、少しは私のことも考えてくれたっていいじゃないっ!!うわぁぁん!!!」
涙がどっと溢れて、私は泣き叫びながら大事な日記を投げつけていた。
「わからずやっっ!!!私は好きだって言ってるのに、なぜわかってくれないの!?聞こえてないのっ!?ばかぁああぁっ!!」

あまりに悲しくてその場に居られなくなり、部屋を飛び出した。
(これ以上見張っていても仕方がない気がする・・・)

Burdは物陰から様子を見ていた。
(自分はもう部屋で休むとするか。二人が仲良いことはわかってるし、それを邪魔するのも野暮だからな。状況が今のままならいいとしよう)

部屋に戻ろうとした時、目の前を人影が横切った。

「!?」
「き、貴公!?」

「どうしたんだ?泣いて・・・いたような」
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