チョコのことで不機嫌になっていた私は、マーティンの横に座った後も目を合わそうとしなかった。

どーして1人で食べちゃうの!?
美味しそうなチョコだったのに。
私だって甘い物好きだし、チョコは大好きなんだからいっぱい食べたかったのよ。
私が腹を立てたままツンとしていると、横にいたマーティンがしみじみと言った。

「友の怒った顔も可愛いね」
[0回]
>Д<なによそのベタなおべっか言葉は>"<
そんなことで私の機嫌は元に戻らないわよ。
チョコ食べられてしまった恨みの代償は大きいんだから!
私が返事をしないでいるとマーティンはくすくすとおかしそうに笑った。
「これは相当友の気分を害してしまったようだな。そんなに未練があるのか?」

「・・・もちろんよ」
「じゃあまずは一個食べてみなさい」
「一個じゃヤダ><」
「食べないのか?」
「食べないもんっ」
「そうかそうか、友が食べないなら私が食べてしまおう」

マーティンは箱に1つだけ残ったチョコに手を伸ばした。
「え、ちょっとまってよ、それは食べないで!」
「おや、どうしたのだ。一個だけだと食べたくないのだろう?」

「食べないって言ったけど、まーくんが食べると言うなら別!私が食べるわっ」
私は腕組みをしたまま突っぱねた。
「やれやれ、世話が焼ける子だ。はい、それではどうぞ」

マーティンはチョコを手にとって私の口の前に差し出してきた。
( ゚Д゚)
「ほら、口を開けて」
これってもしかして『アーンして』っていう状態・・・

「ほら、早く食べないと手の熱でチョコが溶けてしまうぞ」
ニッコリと笑ったマーティンの笑顔に、私はあっさり苛立っていた気分が解されてしまった。
「そ、それじゃ頂きます」
ドキドキしながら口を開けて、チョコを食べさせてもらった。

もぐもぐ・・・
チョコレートは口に入るとすぐにとろけて、甘く舌触りの良い滑らかな味が口中に広がった。
「どう、美味しいだろう?」

「う、うん。すごく美味しい・・・」
これならもっと食べたかったなーと心の中で私は呟いたが、マーティンはそれを察したらしかった。
「チョコは後で私が買って来よう。だからもうこのことで怒るのは止めだぞ」
(ぐわー!なんというばかっぷるぶり!)

Burdはチョコレートを仲良さそうに食べている二人の姿にたじろいだ。
(普段と比べて貴公がおしとやか過ぎるのはわかるが、殿下はいつになく変だ。あれは何か企んでいるとしか思えん)
気にはなるが、だからといって中にドカドカ入り込んで邪魔をするわけにもいかない。
自分がここにいるのはマーティンの警護であって、二人の仲を邪魔する為ではなかった。
(よく考えろ自分。殿下とアレが仲良くなったところで自分には関係のない事なのだから放っておけばいいじゃないか。どうなろうが、それが二人の望みならば・・・)

Burdはふぅ~と大きく溜息を漏らした。
だが、諦めようとする心とは正反対のイライラした気分が心を覆っていた。
(今の貴公は伯爵どころか私のことも忘れて殿下しか見ていないんでしょうな。次Hassildor伯爵にお会いした時、殿下とのことはお話させて頂きますよ!)
その時、通路からガヤガヤと声がした。
このホテルの宿泊客が食事をとりにきたようだ。

(これではもう中の様子は伺えんな。仕方がない、今の内に自分も食事をとっておくか)
「・・・側においで」

突然マーティンは私の肩に手をまわしてきて囁いた。
あわわわっ。
急に触れられてびっくりした私は、全身を強張らせた。
「ん、なぜ緊張している?」

「そ、そんなことないわ」
平静を装って答えたつもりだったが、声がかすかに震えていた。
ドキドキと物凄い速さで心臓が高鳴っている。
こんなに近くにいたらマーティンに聞こえてしまうんじゃないかしら。
「そう固くなるな、この部屋に居るのは私と君だけなんだ。こうして肩を寄せ合っていようが誰も咎める人物はいない、そうだろう?」

「う、うん(;゚ ゚)」
マーティンに体を抱き寄せられて、私はぴったりと傍に付き添わせられていた。
とても目を合わせられない。

時間がまるで止まってしまったかのように、部屋の中はシンと静まり返っていた。
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