部屋に入って、どこに居るんだろうと見回すと、左奥にある机の側の椅子にマーティンは座っていた。

私たちが入ってきても、振り向くこともなく、じっと座ったままだった。
「で・・・殿下、大丈夫?」
[0回]
背後から私が恐る恐る声をかけると、憔悴しきった声で返事をした。
「ああ、すまない・・・眠っていたらしくてね・・・」
「え、あ、あら、ごめんなさい!だから呼びかけても返事がなかったのね、起こして悪かったわ><」
慌てて謝ると、マーティンはようやく振り向きながら言った。
「いや、起こしてくれて助かったよ。寝るわけにはいかないから・・・って、なんだBurdもいたのか」

振り向いたマーティンの顔色は優れなかった。
・・・殆ど寝ていないのか、目の下にはうっすらと隈があった。
「なんだいたのかって、殿下、そりゃないですよ。心配していたのはご友人だけではないんです。皆そうだし、私だって殿下が姿を現さないのが気がかりで心配していた1人なんですよ」
Burdがたしなめると、マーティンは申し訳なさそうに目を逸らした。
「すまない・・・1人になりたかったのだ」
マーティンはゆっくりと立ち上がり、じっと私を見た。

すごく何かを言いたそうだったが、言い難い事なのかマーティンはその場に立ったまま黙っていた。
「・・・どうしたの?殿下。言いたいことがあるなら言って下さいな」
私が諭すとマーティンは小さく頷いてBurdに向き直った。
「Burdよ」

「なんでしょう殿下」
「すまないが外してくれないか。友と二人きりにしてくれ。私達だけで話し合いたい事があるのだ」
Burdは不満気な顔になった。
「はあ、殿下がそうしろと言うなら出て行きますが、私だけ仲間外れというのも寂しいですな」
「私と友しかわからない話なのだ。お前には申し訳ないと思うが、ここは二人だけにさせてくれ」
「わかりました殿下。ではこれだけは言っておきますが、何か悩んでいることがあれば周囲の者に気兼ねせず相談してください」
「うむ、心がけておく。心配をかけて本当にすまない・・・」
Burdは、では、と一礼して部屋を後にした。

Burdが去った後も、すぐにはマーティンは話そうとはしなかった。
「・・・殿下?もう私たちだけしかいないから、話していいのよ。私と殿下しかわからない話ってなんなの?」
私が話かけると、マーティンは重い口を開いた。

「先に、説明しておかねばならないことがある」
「なにかしら」
「以前、君はKvacthの悪夢を見たことがあっただろう?それには私もいたはずだが憶えているか?」
「悪夢・・・もしかして、あの夢にしてはすべてが現実みたいだった奇妙な夢かしら。でもなぜそれを殿下が知っているの?」

「あれはね、夢だが現実なんだよ。私を苦しめていた悪夢に君が現れてー・・・なぜそんなことが起きたのかはわからないが、とにかくあの時の私は君に救われたんだ。私のせいで破壊されたKvacthは、いずれ復興するという希望を与えてくれたからね」
「・・・そうなの。あの夢の中での殿下の笑顔だけはよく憶えているのよ。とても幸せそうだったから」
「そこを言われると悪夢ではないみたいだな、はは・・・。とにかく私はそれきり悪夢を見なくなった。あの日までは」
マーティンは少し照れながら答えたが、すぐに元の暗い表情に戻ってしまった。
「また見るようになったの?いつから・・・」

「あの爺さんが残していった予言、あれは曲者だった。私の不安を再び呼び起こしてくれて、再び悪夢に私は苛まれることになったのだ。異形の者達に襲われるのは同じで場所も変わらない。だがその後が違う」
マーティンが話した悪夢の内容はこうだった。
破壊されたKvacthの廃墟で、OBLIVION GATEから現れた異形の集団に襲われる。

倒さなければ、殺されてしまう。
実際に自らの体に牙や剣が突き刺さるような凄まじい痛みと共に。
抵抗し、すべて倒してしまうと、モンスターだったはずのそれらの姿が・・・
「私の大切な者達の無残な姿になっているのだ・・・クソッ」
マーティンは吐き捨てるように言った。

「あの光景にはゾッとする。私の大切なブレード達が皆・・・死んでいるんだ。それも私を守ってではなく、私が彼らを殺め・・・」
「殿下、そんなこと言ってはダメよ、心に悪い影響しか与えないわ」
マーティンの引きつった形相に危険なものを感じて、私はそれ以上話さないよう制止した。
でも、マーティンは制止を聞かず、目を伏せ辛そうに夢の続きを話した。
「振り向くと・・・Burdや君も・・・死んでいるんだ。恐ろしいものを私は毎晩見せられて・・・もう、眠るのが怖いんだよ。あんなモノ見るぐらいなら眠らない方がマシだ」

マーティンは溜息を付き、顔をしかめて叫んだ。
「やつらに体中を切り裂かれて骨まで食われる苦しみか、私自身の手で友や仲間を殺めて、自分だけ助かるかのどちらかしか選べない悪夢だ。なぜこんな悪夢に私は惑わされなければならんのだ!」
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