どうしたのかしら・・・とても静かだわ。
やっと目が覚めたのかな。
私は目をゆっくりと開いた。

綺麗な夕焼け空が目に飛び込んできた。
・・・どこ?
ここ、どこ?

私の知らない場所だ。
どこかの町?
こんな所、私見たことない・・・。
横には、マーティンが倒れていた。
「殿下、起きて下さい、どうしよう、私達まだ夢から覚めてないみたいだわ」
私は体を起こしながらマーティンに呼びかけた。

「うう・・・、何が起きたのだ・・・」
マーティンは頭を抱えながら、フラフラと起き上がり、辺りを見回した。
「私達Kvatchにいたのに、一体ここはどこかしら」

「・・・」
マーティンは言葉を失ったまま立ち尽くしていた。
「どうしたの?」

マーティンは私の側を離れて、町の家並みが見える方向に数歩、何かに引き寄せられるように歩いていった。
「殿下?」
「・・・Kvatchだ」
「え?」
「ここはKvatchだ、この景色は見覚えがある。私がよく知っている、あの都市だ」
マーティンの声は震えていた。
「で、でもKvatchは廃墟になったんでしょ?この町は全然壊れてないわ」

「破壊される前のKvatchの夢を恐らく私達は見ているのだ。この景色は確かにKvatchだよ」
「そ、そうなの?私、まだピンとこないんだけど」
「あちらの方に行ってみよう。きっとここがKvatchだと君にもわかるはずだよ。ほら、私が居た教会もここから見えているだろう?」

マーティンが歩き出したので、私も後を追った。
「友よ、ここなら見覚えがあるはずだ」

殿下が連れてきた場所は、私が悪夢の中でマーティンに最初に会った城の前だった。
「わかった・・・Kvatchのお城ね。わあ、こんなに立派で綺麗な城だったのね・・・」
「崩壊後は見る影もなくなってしまったがね。近辺を周って見よう」
町中を私達は散策した。
夕日に赤く染まった町並みは、これ以上ない安らぎの雰囲気をかもし出し、とても美しく、このまま光の中に溶けてしまいそうなほどの恍惚感を私は感じた。
「これはAkatoshの像?」

「そうだ、私が最も崇拝する神だよ。再びこの像を、この目に出来るとは思いもしなかった」
マーティンはまだ茫然として、心の整理が出来ていないようだったが、言葉はとても穏やかだった。
「懐かしいな、何もかも以前のKvatchのままだ。教会の中もそのままなのだろうか・・・」
「行ってみましょう」

私とマーティンは教会の裏手からぐるりと回って、表の方へと歩いていった。
廃墟と化したKvatchの世界では崩落していた教会の先端も、ここでは元通りになっていた。

マーティンは教会を見上げながら呟いた。
「今までは夢を見ても早く覚めてくれと祈ってばかりだったが、この夢は覚めないで欲しい・・・どうか・・・」
薄暗い聖堂内はステンドグラスから柔らかな光が差し込み、ぼんやりと明るく照らし出していた。

「ここってこんなに綺麗な礼拝堂だったのね・・・」
「・・・ああ」
マーティンもその美しさに見とれていたようだった。
「座ろうか」
私達は最前列の椅子に並んで座った。

「夢とは言え・・・もう一度この場所に訪れることが出来て、これほど嬉しいことはないよ」
マーティンはすっかり落ち着きを取り戻していた。
悪夢の中で見た、怯えた様子の殿下と全然違う。
「ねえ、どうして悪夢がこの夢に変ってしまったのかしら」

「わからない、私が君に聞きたいぐらいだよ。君は何をしたんだ?」
「・・・ただ、殿下を殺されたくないって強く思っただけよ。私が守らなきゃって」
「そうか・・・もしかすると、君のその強い想いが、私の悪夢を解いてくれたのかもしれないな」

「解けたの?それじゃあ、もうあんな酷い悪夢は見なくて済むの?」
「私の気の持ちよう次第だと思うが、もう大丈夫だろう。こんなに美しいKvatchを見ることが出来たんだ。心が癒されたよ」
・・・よかった。
マーティンのこの落ち着き方なら、きっと大丈夫だわ。
「私、町を歩いてる時に思ったんだけど、このKvatchは過去じゃなくて未来の姿じゃないのかしら」
「未来・・・」
「すべてが終わって、復興したKvatchの姿なのよ、きっと。いつか必ずこれが現実になるって、夢が教えてくれてるのよ」

「そうなのか?それは・・・私にとってこれ以上ない救いの言葉だよ。この再生された都市を再びこの目で確かめられるのなら、私はなんだってやれそうな気がする。・・・友よ、私の問いに1つ答えてもらえないか」
「ええ、なに?」
「すべての片がついたら、私はKvatchに戻り、この目で復興を確かめたいのだ。いずれ皇帝にならねばならないのはわかっているが、それだけは何としても叶えたい。友よ、私はいつの日かKvatchに戻ることが出来るだろうか」
すがりつくような目でマーティンは私を見ていた。
・・・きっと気になっていたのね。
Kvatchのことがずっと・・・。
「戻れるわ、必ず戻れるわよ。当たり前じゃない。私もその願いが必ず叶うようにがんばるから」
「そうか、ありがとう、その言葉を聞きたかったのだ。復興の日が来るまで私も努力しなくてはならないな」
マーティンは安心しきった顔を見せ、ニッコリと笑った。
マーティンが笑顔を見せてすぐに、変化は起きた。
周囲は溶けていくように色彩を失なっていき、視界がぼやけ、そのままフッと消えた。
「うーん・・・」

あれ・・・また違う場所だわ・・・。
見たことがある天井が目に入った。
ここ、寺院?
よかった、やっと本当に目が覚めたのね。

私は安堵の溜息をつき、しばらく寝そべっていた。
・・・あれ?
この部屋って・・・。
起き上がって周りをぼーっと見た。

ここ・・・殿下の部屋じゃない?
わ、私、なんでここにいるの?
変ね、ブレードの寝床借りて寝たはずだったのに。
・・・もしかして寝ぼけてここで眠ってしまったとか?
うわー、閣下に謝らなきゃ!
私が勝手に使ってて寝る場所なくて困らせたはずだわっ><
私はベッドを下り、慌ててバタバタとホールに走っていった。
いつもの場所にマーティンはいた。
「おっおはようございます!昨夜はごめんなさい、私ったら寝ぼけて殿下の部屋を使っちゃってたみたいで」

「ああ、おはよう。よく眠れたかな」
「ハイ、よく眠れました><ホントにごめんなさい、殿下の寝る場所なかったんでしょ?」
「気にするな、他にも部屋はあるからそちらで私は寝させてもらったよ」
「怒ってないの?」
「怒るようなことじゃないだろう?」
マーティンはくすくすと笑いながら席を立った。
そして、近くの壁側に寄って私を呼び、こそっと尋ねてきた。

「友よ、聞きたいことがあるのだが、昨夜何か奇妙な夢を見なかったか?」
「夢?ええ、見ました。すごくリアルな夢で殿下が出てきたんです。ひょっとして殿下も同じ夢を!?」
「・・・いや、私は寝る場所がいつもと違ったせいか昨夜は夢を見なくてね。君が私の寝床でどんな夢を見たのか聞いてみたかったのだ、ははは」
・・・あれっ?私が見たマーティンの悪夢って、ただの私の夢だったの?
てっきり殿下の夢に本当に入り込んだと思ってたのに・・・なあんだ、残念TT
マーティンはなぜか、無言のままニコニコしながら私を見詰めていた。
その顔を見ていた私の頭に、夢の中でマーティンが言っていた言葉が、ふとよみがえってきた。
『友よ、私はいつの日かKvatchに戻ることが出来るだろうか』
あれはきっとマーティンの願いだわ。
願いを叶えさせてあげたい。
そうだ、あれを殿下にあげちゃおう!
「殿下、これを受け取ってくださいな」

「ん、それは?」
「付けていればどんな願いも一度だけ叶えてくれる指輪らしいんです。ある人から譲り受けたんですけど、殿下に貰ってほしいの。私は使ったことがないから本当に効果があるのかわかんないけど、どうぞ、お守り代わりに持ってて下さいな」
「ほう、一度だけ願いが叶う・・・か。君にとって大切な物じゃないのか?」
「私よりも殿下に使ってほしいの。私なんかの願いより、殿下の願いが叶ったほうがすっごく嬉しいから」
「私の願いか。いいのか?渡してしまったら君の願いが叶わなくなるのでは」
「いいのよ。今の私には特に何の願望もないわ。何か願いがあれば私は指輪に頼らず自力で叶えたいし、こういうのは殿下の様な必要とされる大切な人に使って欲しいの」
「そうか、ではありがたく受け取ろう。でもなぜ私の願いを叶えさせたいと思ったんだ?とてもつまらない願いを持っているかも知れないんだぞ?」

「どんなにつまらない願いでも、殿下にとっては大事なことなんでしょ?どんなことでも良いから、その指輪に願いをかけて下さいな」
私が諭すと、マーティンは頷いて指輪を懐にしまった。
「それでは、私これでお暇します」
「うむ、では外まで送ろう」
どうしたのかしら、殿下が送ってくれるなんて。
「今日は久しぶりに気持ちよく目覚められて気分が良いんだ。お陰でやる気が沸いたよ」

マーティンは何かが吹っ切れたような晴々とした表情をしていた。
「閣下はもう少し長く寝てくださいな。やっぱり3時間の睡眠は少なすぎると思うわ」
「そうだな、少し増やしてもいい。嫌な夢を見ることはもうないだろうからね」
「嫌な夢?」
「はは、なんでもないよ。それじゃあ、また・・・ああ、いつか・・・Kvatchが元の都市の姿に戻ったら、私は行ってみようと考えている。その際は、君も一緒について来てほしい。帰り道は気をつけて、じゃあね」

マーティンは穏やかな笑みを浮かべて私を送る言葉を告げ、寺院の中へ戻って行った。
私は寺院の外に待たせていたシャドウメアに跨って、Brumaへ続く坂を下りながら考えていた。

あの夢は、本当に私だけが見た夢だったのかしら。
すごくリアルな夢で、本当にマーティンと話していたみたいだったのに。
・・・まあいっか。
マーティンの元気な顔が見れたんだから、それでだけでもう十分よ。
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