店の外に出たBurdが辺りを見回すと、さっきの女性客が少し離れた岩陰で立ち止まっていた。

「そこのご婦人、すみませーん!」
Burdは急いで駆け寄っていった。
女はBurdの声に気づいて振り向いた。
「あら、さっき店内でお見かけした方ですね。何か私に御用でしょうか」

「ご婦人、先ほど店内でこれを落とされませんでしたか?」
Burdは手に持っていたみかんを女に見せた。
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「あらっ、それ私のみかんだわ。いつ落としたのかしら、やだ恥ずかしい」

「よかった、やはりご婦人の落し物でしたか、ははは」
通常、このシチュエーションでの落としものはハンカチーフが相場と決まっている。
落としたハンカチを拾って、女性に手渡す・・・それがなぜかみかんになっていることに疑問を持つべきだったが、Burdは色気を感じさせる若い女性を目の前にしてすっかり我を忘れて舞い上がってしまっていた。
「どうも、わざわざ届けてくださってありがとうございます」

女はみかんを受け取ると、Burdに笑顔でお礼を述べた。
二人の間はいい雰囲気になっていた。
ここは名前を尋ねるチャンス!と、Burdが口を開いた時、先に女性の方が、あの・・・と言いづらそうにきり出した。
「ついでといってはなんなんですけど、一つお願いしたいことが・・・」

「はい、なんでしょう」
この女性の頼みとあらばなんでも聞いて、解決しなくては漢ではない。
「さっきからずっと私つけられていているんです」
「えっ、なんですと」
「ほら、あれを見てください。私をじっと見ているでしょう?」
けしからん奴は自分が成敗せねばと、Burdは女性が指し示した方向を睨み付けた。

「キ、キツネ?」

「ええ」
少し離れた場所に座ってこちらを見ているキツネに、女は本当に困っているようだった。
「ずっと後をついてくるんです。お店で時間をつぶしている内にいなくなるかと思ったんですが、出てきたらまた現れて・・・私キツネは嫌いだから困ってしまって」
「えぇ?キツネが嫌いだとは・・・今までキツネ嫌いの方には会った事がないのでちょっと驚きました。ご婦人はどうしてあの動物が嫌いなのですかな?」

「だって、キツネって可愛そうなイメージが強いじゃありませんか。
『Gon the Fox』のお話はご存知ありませんか?あのお話の影響で、私キツネを見るだけで辛くなってしまって」
女性はとても真剣な眼差しでBurdに言った。
「ええと、確かいたずらきつねが改心して、食べ物を農家に届けていたら最後猟師に・・・」
「あの、それ以上話の筋をおっしゃらないでください、聞くと悲しくなりますから」

顔をわずかにしかめた女の目が潤んでいた。
「す、すみませんな、とりあえずキツネを追い払いましょうか」
キツネの様子を伺うと、どうやら害を与えるつもりはなく、単に腹を空かせているだけのようだ。
「ご婦人、どうやらこのキツネはお腹を空かせていますな。きっと果実の匂いにつられて後を付いてきたのではないでしょうか」
「なあんだ、この子お腹が空いていただけだったのね」

女は納得した表情でバッグからさっきのみかんを取り出し、地面に置いた。
キツネは一瞬のうちにパクっと食べてしまった。
その後も側を離れる様子がなく、欲しそうな目でじっと見上げていた。

「ははは、まだこのキツネは食べ足りないようですな」
「あらら、困った子ね。ちょっとまってて」
女はもう一度みかんを上げようと、バッグの中を覗き込んだ。
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