「それじゃ、アノレタイノレくん、あちらで君を紹介したいので前に出てもらっていいかな」

「はい、大丈夫です」
アノレタイノレはわずかばかり緊張した声で答えた。
先の3人が並んでいた所に彼を立たせ、横に立ったマーティンは皆に向かって紹介した。

「アノレタイノレくんは、仕事関係で立ち寄っていた帝都で偶然ここの求人を見て応募してくれた若き青年だ。採用が決まったことでその仕事は辞め、新たな気持ちで皆の一員に加わることになった。さあ、君から自己紹介をしてくれ」
アノレタイノレは緊張をほぐす為、フウっと深呼吸して話し出した。

「皆さんこんにちは。改めて紹介させていただきますアノレタイノレと申します。以前勤めていた教団ではアサシン見習いをやっていました。超有名なアルタイル先輩と名前が似てるのでよく暗殺予告状で間違われていましたが、まったく別人なので注意して下さいね。特技は気配を消すことと嫌な顔一つせず快く受けるナンデモお使いです。あっ、教団を脱退したのは自分に暗殺は合わないと感じたからです。このアサシン服はアルタイル先輩から脱会記念にと一着分けて頂きました。裏地部分に先輩がこっそりサインしてくれたのでこの服は宝物になってます。では、以上です」
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マーティンはコホンと咳払いをして、引き続き紹介を続けた。

「彼はまだ若く、前職場では見習い扱いだったそうだが、面接の時点で有能な戦闘能力を秘めていると私は見抜いた。私はその能力を最大限に活かすため、我が寺院のハウスキーパーに迎えることにした。恐らく素早い掃除、調理をー洗濯はまだ任せられんがー彼はすぐこなすことが出来る様になるだろう。買出しも今度から彼に任せるつもりだ。迅速なお使いこそが質の良い食料品や日用品を購入できる秘訣だからな」



一同、大人しく紹介を聞いているだけなのに、しいんと静まり返った雰囲気がとても気まずく、皆背中がムズムズした。

この空気の原因は、いつもの明るく元気なツッコミがないせいであった。
マーティンはBurdに向かって小声で叫んだ。
「あー、『アサシンにハウスキーパー任せていいんですか、買出し頼んでいいんですか』みたいなツッコミは出ないかー・・・」
しかし、Burdは俯いたままツッコミどころか返事も返さなかった。

彼の表情は悲しげで、どこか放心状態だった。
「こらBurdよ、聞こえてないのか?」
マーティンがBurdに近づこうとすると、Miariが呼び止めた。

「まーくん、まって。あのね、Burdは・・・」
「すみません、体調が優れないので席を外します」
Burdは消え入りそうな声で言い、マーティンに背中を向けた。

振り返ることなくBurdは、その場を後にした。
ツッコミを入れてもらえなかったマーティンは唖然としたままBurdを見送るしかなかった。
Burdのツッコミがない寺院、それはカレールーを入れ忘れたカレーと同じであった・・・。
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