新年を迎えたクラウドルーラー寺院。
ブレード達はみな朝から広間に集合していた。

HANAYOME修行で留守にしていたMiariも一時帰還し全員が揃っていたが、一人肝心な人物がもう昼前だというのにまだ姿を現していなかった。
「陛下の姿が見当たらないようだが・・・」
「どうしたのかしら。いつも一番に早起きしてくるのに」
「まさか新年早々寝坊されたのでは」

「これ、滅多なことを言うものではない。陛下の辞書に寝坊と言う言葉は存在しないぞ」
「でも昨夜は遅くまでお節作っていたみたいだからきっと寝坊ではないでしょうか」

「陛下も寝坊することってあるんですね。でも正月ぐらいゆっくりしてもいいんじゃないでしょうか」
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皆があれやこれや噂していると、西側の扉が開き、マーティンが急いで広間に入ってきた。
そして皆がすでに集まっているのに気付いて照れ笑いしながら謝った。

「遅れてすまない。昨夜は遅くまでお節を作ってようやく終わって寝ようとしたら、実家に年賀状を書くのを忘れていたのを思い出してな。慌てて書いたんだが、気付いたら朝の5時で2時間だけ寝るつもりで寝たらいつの間にか11時になっていたよ、ははは」
寝坊したことを詫びるマーティンの言葉の内容の一部に引っかかったBurdはつい突っ込んた。
「あのう殿下、実家に年賀状って、どこの実家ですかな?」

「Kvacthの実家に決まっているだろう?養父と養母にだけはいつも欠かさず送っているのだ」
「・・・失礼ですが、Kvacthは廃墟状態で誰も居ないのでは」
「何を言っている。すでにKvacthは復興したぞ?例の暁軍団がボランティア美化運動と称してKvacthを元の美しい街に戻したのを知らなかったのか?」
「えー!ウソー!知らない間にまた平和になってるう!」

世界はまたBurdが知らないうちに平和度が上昇したようだ。
いったいどうしてこの人は迷惑なほどあっさりと事を解決してしまうのだろうか。
のほほんとしていて実はそうとうなやり手であの狂信教団を教祖ごと丸め込んだとしか思えない。
「では諸君、改めてここで新年の挨拶を述べさせていただく。新たなる夜明けを迎えた我々は更なる新しい挑戦に挑み、そして臨み続けねばならない。主人公としての責務としてこれからも寺院を大いに盛り上げていく所存だ。これをもって私の所信演説とする。あけましておめでとう諸君、今年もよろしく」

「陛下!あけましておめでとうございます!こちらこそ今年も宜しくお願い致します」
「あけましておめでとうございます!」
「宜しくお願いいたします!」

「まーくんあけおめ☆」
ブレードたちから次々と新年を祝う挨拶の声が上がった。
だが、Burdはまたマーティンの所信演説内の一部に引っかかってしまい、新年の挨拶よりもツッコミが口に出た。

「あの~殿下、今ご自分を主人公って言・・・」
「諸君!この特製おせちをご覧あれ!」
マーティンはBurdの言葉をスルーして、皆を正月料理が並んだテーブルの前に招き寄せた。

「まずこの特製おせちから説明せねばなるまい。一見、一枚絵に見えるがそれは目の錯覚なので気にするな。エビや数の子、昆布の巻物は美味しいだけではなくそれぞれ意味がある。おせちは本来めでたいものを重ねるという願いをこめて重箱に詰めている。私は一年を皆がめでたく過ごせるようにという思いをしっかり篭めさせてもらった」

「これは手まり餅。正月の演出には欠かせないのだが、12月限定でしか販売されない上に、近所の業務用食料品取り扱い店でもすぐに売り切れるレア商品だ。一昨年、去年と連続で買いそびれたので自作したが、今年の暮れこそは必ず購入しようと思っている」

「これは見ての通りおせちにはかかせない紅白かまぼこだ。なんとこのかまぼこ、クラウドルーラー商品開発部が作り出した特製かまぼこである」

「我々はこの不況を乗り切る為に、強力な商戦計画を練っていかねばならない。その第一弾がこの『
くらうどるぅらぁ名物 お寺かまぼこ』である。まだ試作品段階だがぜひ諸君に試食してもらい、感想を聞きたい。一人一本ずつのお持ち帰り用に用意したのでもらってくれ」

「そして最後にこの美酒は外せないだろう。希少な酒だが、ある密売ルートを通して大量に仕入れることが出来た。諸君、今日は大いに下町のナポレオン気分に浸ってくれたまえ」
正月おせち料理の説明が終わり、マーティンは皆に振り向いて言った。
「では、料理も無事出揃ったところで皆で乾杯といこうか」

「ちょ、ちょっと殿下、一言宜しいですか?」
Burdはどうしても言いたいことがあって話に割り込んだ。
「あのう、殿下がおせちつくるのはまだ許せますが、なんで寺院に商品開発部があって商戦うんたらでかまぼこ作ってるんですか?おかしくない?」
「おいおい、私が何もしなかったらこの寺院がどうなるかわからんのか?どうやってブレードたちの給料を払えと言うのだ。言うのを忘れていたが脅威がなくなった今、我々は元老院から孤立することになり、援助を受けられなくなったのだ。だから、これからは自分達で利益を得て自給自足でやっていくしかないのだ」

「そうよBurd、平和になって、今までの常識は通用しなくなったのよ。これからは皆でがんばっていかないと」
「そうだそうだ、新しい夜明けが俺達を新しい世界へと導いてくれてるんだ」
「がんばろうぜ!Burd!夜明けはとっくに明けちまったんだ!」
なにこの人たち、やっぱりヘンだぞ、とBurdはその場から逃げたくなったが、いやまて、元老院から孤立したって言ったよね?それすごくヤバくない?
ブレード一同は各々、好きな場所に立ち、飲み物を手に持った。
「それでは諸君、新年を祝って乾杯といこう!」

「乾杯!」
「かんぱーい!」
広間は乾杯の声で賑やかになり、皆早速料理をついばみ始めた。
「うわーこのかまぼこおいしー☆」
「だろう?自分でも驚きのかまぼこだ」

「このしっとりとして、かつしっかりとした歯ごたえ、そしてジューシーな味、すばらしい!まさに究極のかまぼこ。これは間違いなく売れるでしょう」
「この酒も美味いなあ、もう一杯お代わりー」
平和な寺院の面々を不安げに見ながらBurdは呟いた。
「こんな幻の平和に現を抜かしていたら、今に足元すくわれて大変な目にあいますぞ・・・」

しかし、誰もその言葉に耳を傾ける者はいなかった。
「きゃっほうーおせち最高ー!ブレードやっててよかったぁ!」
「みんなーあけおめー!」

「ことよろー!」
「ちっくしょーこのかまぼこまいうー!!」
Burdの言葉は果たして警鐘となるのか、それともただの杞憂となるのか。
真実は、すぐそこに。
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