ふぅ・・・。
今日はいろいろあって疲れたが、ワシにとってそれはとても心地よい疲れだった。

ワシはあらぬ疑いを掛けられ、ガードに捕まり取調べを受けたが、冤罪だったとしてすぐに釈放された。
なぜBAB服を宣伝するだけで、いつも捕まるのか理解できんが、それがワシに架せられた試練と運命なのかもしれん。
ふぅ・・・酒が美味い。
頑張っている自分への褒美として、今日はわずかだがいつもより高い酒を注文した。
体の隅々まで喉越しの良い酒が染み渡っていく。
[0回]

いつも周囲に変態扱いされ、無視され、時には酷い目に遭う災難を乗り越えながらBAB装備を宣伝する、という情熱を私から奪うことは誰にも出来ないだろう。
フッ・・・本当に今日は酒が美味い。
「やあ、おやっさん、調子はどうだい」

ほんのり酔いが回ってきていたBABオヤジに酒場のマスターが話しかけてきた。
「・・・マスター、この酒は美味い、実に美味いよ。天下逸品の味だ」
「ははは、ありがとうよ。上機嫌な所を見ると良い事でもあったのかい?」
「今日は仕事が上手くいってね」

BABオヤジは誇らしげな顔を見せて笑った。
「仕事?ああ、Bob服の宣伝か。商品に自信はあるのに、いつも客に逃げられると嘆いていたよな。上手くいったってことは、服が売れたのかい?」
「マスター、Bob服じゃなくてBAB服だよ・・・。ワシの目的は商売ではない。あくまで服を着てもらい、BAB服の良さを広めることがワシの使命でね」
「ほう、すると気に入ってもらえたのかい?」

「帝都の観光に訪れていた中年の男と若いエルフ女性の二人連れがワシの説明を聞いてくれてね、気に入って服を貰ってくれたのさ」
「ええ?嘘だろ?そんな簡単に上手く行くはずがないじゃないか。本当は逃げられたんだろ」
「そんなことはない、お嬢さんも連れの旦那も気に入ってくれていたな」
「信じられないな。あんたの行動は胡散く・・・いや失礼、行動が突飛過ぎて客が寄り付かないとあんたの同僚が困ってたよ」

「あいつらそんなことを言っておったのか?まったく、BAB推進委員会運営方針を未だ理解しておらんな・・・。マスター、ワシの話は本当だ。太腿部分に大きなスリットが開いた黒のロングドレスが良く似合うエルフ女性でね。試着してもらえた時はワシには彼女が天使に見えたよ」
「はっはっは、天使だって?夢でもみたんじゃないのか?天使に見えるようなべっぴんさんがそこらを歩いているはずがないじゃないか」
「夢か・・・それでもいいさ。マスターにもワシが見た夢を見せてやりたいねぇ・・・」
その時、背後で扉が開く音がして3人の客が店内に入ってきた。

「友よ、案内ありがとう(^^」
「うふふ、これくらいでお礼は要らないわよ、まーくん。すぐ近くに飲み屋さんがあって良かったわ」
「そうか、では今夜は友と2人で心行くまで飲み明かさねばな(^^」
「ちょっと、3人ですよ!自分もいることをお忘れなく!」
「噂をすれば、なんとやらだ。マスター、あんたにワシの見ている夢は見えてるかい?」

「あ、ああ、見えているよ。黒のロングドレスのエルフ女性・・・まさか本当だったとは・・・」
酒場のマスターは半信半疑だったBABオヤジの話が本当だったことに驚いた。
「ワシの目に狂いはなかったようだ。実にあのドレスは彼女に良く似合っている」

「ああ、確かに。疑って悪かったよ。だがおやっさん、あんたさっき2人連れだとか言ってなかったか?彼らは3人連れみたいだが」
「そこまで人の事情はワシは知らんよ。いいじゃないか、マスター、あんたにとっては客が3人も来てくれたってことなんだ」
「おや?貴方は先ほど昼に世話になった方ではありませんか」

マーティンはBABオヤジに気付いて、親しげに話しかけた。
「こんばんは、おじさん。また会うなんて奇遇ね」
Miariも嬉しそうに笑みを浮かべて、ぺこりと頭を下げて挨拶した。
「こんばんは旦那方。相変わらず仲が良ろしいようで。彼女を居酒屋に連れてくるなんて、旦那もやるねえ」

「ははは、たまにはいいと思ってね。酒でも飲みつつ腹を割って話しあうのもまた一興だ」
「そうですな。まあ、ゆっくりしていってくださいよ。ここの酒は一品ですから」
「ありがとう、そうさせてもらうよ」
BABオヤジは酒場のマスターに向き直って言った。

「マスター、何をぼんやりしてるんだ。夢の中にいて接客を忘れてしまったかい?・・・フッ」
「おおっと、すまないね、ようこそお客さん。席は好きな所に座ってくれ」
「ご主人、私達はカウンターで飲みたいのだが、いいか?」
「もちろん構いませんよ。ではこちらへどうぞ」
マスターは3人をカウンターへ案内し、持ち場へ戻った。
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