「ふぇ、ふぇえぇぇん・・・まーくん・・・」

1人、夜の植物園のベンチに座りこんでいたMiariは、側にBurdが近づいても気付かず、嗚咽を漏らしながら泣きじゃくっていた。
[2回]
「まーくん、まーくん・・・っ、ひっく・・・まーくん・・・うぅ、ふえぇ・・・ばかぁ・・・」

手で顔を覆い、肩を震わせながらマーティンの名前を何度も呼び、その泣き声が止む様子は無かった。
Burdは弱々しく泣き続けるMiariの姿に戸惑いを感じ、すぐには声をかけることが出来なかった。
しかしこのまま黙って見ているわけにもいかないので、意を決して声をかけた。

「貴公、そんなに泣かんで下さい」
Burdは背後からそっと囁いた。
聞きなれた声が背後で突然聞こえて驚いたのか、Miariは肩をびくりと大きく震わせ、顔を覆っていた手を下ろし、恐る恐る振り返った。
「・・・Burd?」

1人きりでどれほど泣いていたのか、泣き腫らした目は真っ赤になっていて、色白の頬は涙に濡れていた。
「なぜ・・・うぅ、どうしてBurdがいるの・・・ふぇ」
嗚咽を漏らしながらMiariは尋ねた。
「すみません、実は貴公と殿下が寺院を出てからずっと自分も付いてきていたのです。姿を現すつもりはなかったのですが、今のお二人の状況を放っておく訳にはいかなくて」

Miariは涙を拭いながら言った。
「やだ・・・ずっと側にいたのね・・・」
「申し訳ない貴公、お二人の旅に割り込みたくはなかったのですが、安全上の問題もありましてな。先ほど殿下に会って話を聞いてきましたよ。どうしたんです、あんなに仲良かったのに喧嘩してしまうなんてー・・・」
どうやら落ち着いてくれたかと安心して、Burdがいつもの様に普通に話しかけた時、急にMiariはベンチから立ち上がりBurdに駆け寄って、大声を上げてわっと泣き出した。

「うわぁぁん!Burd、Burd~!私、本当にまーくんのこと好きなのよ、嘘じゃない、騙してなんかいない、なのにまーくん全然わかってくれないし出て行けって怒鳴るし・・・怖かったよぅ・・・うぇえぇぇん」
ボロボロと涙を流し、まるで怯えた少女の様に泣きじゃくるMiariの姿に、今まで彼女に感じることの無かった感情が湧きかけ、慌てて自分の心の平静さを保ちながら言葉をかけた。
「どうか落ち着いて下さい。貴方が殿下のことを好きなのはもう言わなくたってわかってますから」

Miariは嗚咽を漏らし、喉をしゃくりあげながらひたすら泣き続けていた。
「殿下が貴方の想いをわかってくれなかった理由はお分りですか」
Burdはそっと尋ねた。

「・・・私が逃げてばかりいたからよね・・・まーくん誘ってくれてたのに・・・なのに私・・・」
「殿下が嘆いてましたよ、キスもさせてくれない、抱きしめても逃げられる。自分は嫌われているんじゃないかとね。なぜ拒否したんです。殿下を好きなら逃げる理由などないでしょう?」
「だって、ひっく、だって私・・・」
Miariは大きく嗚咽を漏らしながら話した。
「は、伯爵に悪くって・・・ふぇぇ」
「伯爵に悪い?もしかして貴公は伯爵に罪悪感を感じていたんですか?」
「伯爵のことが大好きだったのに、今の私は、まーくんのことしか頭にないわ。伯爵のこと嫌いになってもないのに、まーくんと仲良くなっていいの?って・・・うわぁぁん!Burd、私を殴って、殴ってちょうだい~!!バカな私を殴ってよ~!!>Д<」

「はは・・・心移りしてしまいましたか。なんとなく自分も貴公は伯爵より殿下が好きなのではないかと薄々感じてはいました。伯爵が貴公に恋愛感情を持っていたかまでは存じませんが、貴公の気持ちが収まらないなら素直に御自分の想いを伯爵に打ち明けた方がいいでしょうな」
Burdは優しく笑いながらMiariに言った。
「自分がこんなこというのも照れますが、最近の貴方は随分と綺麗になりましたよ。自分が同行していた頃の貴方は子供っぽいだけでそんな美しさはなかった。だが貴公が殿下と居る様になってからは見違えるように・・・本当に殿下が好きなんですな」
「私は綺麗なんかじゃない・・・。好きになってもいつも相手を傷つけてばかりいる不器用で嫌な女なのよ。伯爵だけじゃなくマーティンも傷つけてしまうなんて・・・ううう」

伯爵を傷つけた・・・?
BurdはMiariが漏らしたその言葉の意味がわからなかった。
「貴公、伯爵と何かあったんですか?私が最後にお二人を見た時は仲が良いように見えましたが」
私、伯爵に・・・とMiariは話しかけたが、私の口からはっきりと言うことは出来ないの、ごめんなさいと、か細い声で謝った。
だが、Burdの知らない間に伯爵との進展にある問題が生じ、そんな状態が続いているうちにマーティンに心惹かれるようになってしまい、心が移ろい易い自分を苦にしていたという胸の内を明かしてくれた。

Burdはそうなっても別におかしくないですよ、とMiariを責めることはしなかった。
「貴公、何があったとしても、その時その時を大切にして遠慮せずに想いを貫き通してかまわんのです。もちろん相手の気持ちを考えずやりすぎてはいけませんが、素直に好きな相手に甘えられることほど幸福な気持ちになれるものはありませんよ」
「Burd、私マーティンに甘えていいの・・・?」
すがりつくような目でMiariはBurdに尋ねた。

「今の殿下は・・・」
Burdは苦笑いを浮かべた。
「少しお灸を据えた方がいいでしょう。自分が説教しておいたので貴方に対する誤解は消えたでしょうが、貴公を疑って泣かせたのは簡単に許せません。殿下の行動も気になりますから自分はしばらく貴公の側にいます。すぐに殿下に甘えてはいけませんよ」
夜風で身体が冷えてはいけない、そろそろ戻りましょうかとMiariを連れて行こうとすると、彼女の顔にサッと怯えの表情が浮かんだ。
「わ、私、戻ってもいいの?マーティンすごく怒ってたのよ。出て行けって、もう顔も見たくないって凄い剣幕で怒ってたわ。またあんな顔見たら私・・・」

Miariは不安な顔をして怖がっていた。
Burdは気弱になっているMiariを優しくかばいながら言った。
「そんなことは自分が言わせませんし、させませんから安心してください。さあ、宿に帰りましょう。きっと殿下はもう怒ってはいませんよ。貴方が戻るのを待っているはずです」
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