「ふぅむ、帝都一の有名ホテルだけあって料理の味は格別ですな。酒も美味いし、長旅の疲れも吹っ飛んで生き返った気分だ。いやぁ、これは美味い!」

Burdは二階のレストランで上機嫌になって酒を飲んでいた。
他の客たちが交わしている会話で、室内はとても賑やかだ。
二人の監視に忙しく食事を取るのを忘れていたせいもあって、空きっ腹を満たそうと夢中になって食べていた。
[1回]
次は何の曲を演奏しようかしら。。。

回らない頭でピアノの鍵盤をぼーっと眺めながら考えていると、お風呂を済ませたマーティンが現れて背後をすっと通り過ぎた。
部屋を出るつもりなのか、扉の方へ歩いていく。

「あれ、まーくん、どこかいくの?」
呼び止めるとマーティンは振り向いた。
「うむ、用事があるから一階のフロントまで行ってくる」

「まって、下に行くのなら私も同行するわ。1人にさせるわけにはいかないもの」
「いいよ、ホテルの外に出るわけではないし、すぐに戻る」
「だめだってば、何かあったら大変だわ」
「なんだ、1人で部屋に残るのが寂しいのか?」

マーティンは笑いながら私を見た。
・・・やだ、そうじゃないわよ。
私は立ち上がって言い聞かせた。

「違うわ、殿下を独りで行動させるわけにいかないだけ。私が付いて守っておかなきゃ・・・」
「殿下?ああ・・・そうだな、私を独りにして襲われたりでもされたら大変だものな」
そう言ってマーティンは私の腕を掴もうと手を伸ばした。

「君が傍に居てくれるのなら私も安心だ。一緒に行くなら腕を組んでいこうか」
私は驚いて腕を掴まれる前に咄嗟に身を引き、マーティンから離れ顔を背けた。
「や、やっぱり私行かないっ!すぐ戻るんでしょ?だったら1人で行っても大丈夫・・・っ」

「・・・わかったよ、じゃあ1人で行って来る」
マーティンは仕方なく1人で部屋を出た。

(やれやれ、参ったな・・・)

(なぜそんなに私に触れられるのを嫌がるのだ。あからさまに避けなくてもいいではないか)
友に好かれているとばかり思っていたが、それは自分の思い違いだったのだろうか、とマーティンは寂しい気分になった。
(まさかBurdの奴め、友が私に惚れているなどと言ってからかったわけだけではないだろうな。本当は友には別に本命が居るのを知っていて・・・くそっ、奴が居ればどついてでも問いただしてやるのだが)

だが、Burdはいない。
今頃奴は寺院でのんびりしているか、Brumaにちゃっかり里帰りしているかもしれんな、とマーティンは顔をしかめつつ思った。
自分とMiariの二人しかいないのだから、自分でMiariの想いを確かめるしかなかった。

右手の通路が視界に入り、一階へ下りる階段はこっちだったな、とマーティンは歩いていった。
「まーくん、まーくん、ごめんね・・・」

私は自分のふがいなさが情けなくて、誰もいない部屋で1人謝り続けていた。
マーティンが誘ってくれているのに、どうしても拒否してしまい受け入れることが出来ない。
避けることで絶対傷つけてしまってる。
傷つけたくないのに、そんなこと、言いたくないのに・・・。
でも、どうしてもマーティンを想う心とは逆の、つれない言葉しか出てこない。
私はなぜ、こんなにマーティンのことが怖いの?

私が好きだったのはHassildor伯爵だった。
・・・本当に好きだった。
けなされても、アフォって言われ続けても私は伯爵に夢中になっていた。
ようやく想いが通じて、やっと私のことわかってくれたし、仲良くなれて嬉しかった。
それなのに、それなのに・・・

私裏切ろうとしてるんだわ・・・。
ごめんなさい伯爵、私、マーティンのことが貴方よりも・・・

いつの間にかマーティンの存在は私の心の中で、押さえきれないほど大きくなってしまっていた。
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