「Hassildor伯爵はSkingradを治めている伯爵ですよ。殿下、ご友人から伯爵の話を聞かれたことはないのですか?」
「Skingradの伯爵としてなら名を聞いたかもしれん。だが、そういった感情が絡んでいたことまでは・・・」
二人の会話は耳に入っていたが、突然のことにすっかり狼狽していた私はどうしたらいいのかと焦りばかりが頭を巡っていた。
「・・・・のよ」

言わなければならない事を言ったが、動揺した心を振り払えなくて、私の喉からはかすれたような声が出ただけだった。
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「貴公、今何かいいました?釈明したければはっきり言いなさいよ」
「話してない・・・殿下は何も知らなかったのよ」
Burdは案の定呆れた様子だった。
「知らなかったですと?てっきり殿下は知っていると思ってましたよ。ですが伯爵は殿下のことを御存知なんでしょ?」
「・・・・のよ」

「はい、なんですと?」
「伯爵にも殿下の話をしたことないのよ」
私の記憶では、伯爵に殿下のことを話した覚えが無かった。
気まずい静寂が私たちの周囲を包んだ。
マーティンは何も言わず、私から背を向けてしまった。
うう、機嫌を損ねてしまったのかしら・・・。
「おやまあ、隠していたんですか。双方に存在が知られると貴公にとって都合が悪くなるからでしょ」

「違う!隠していたわけじゃないし、都合が悪くなるから話さなかったわけじゃないわ!ただ話す機会がなかっただけよ!」
私はムキになって言い返したが、Burdには平然とした態度で受け流されてしまった。
「言い訳しなくて結構です。でもこれではっきりしましたよ。貴公がやってることはただの二股と何も変わらないとね」
「ま、まってよ!私、二股かけてるつもりは全然無いわ!!」

「あのですな、貴公がそんなつもりがなくても、態度をはっきりさせずに、お二人に同じように接する限りは二股かけてるってことになるんです」
「違う、違うわよっ、そんなんじゃないわ!」
Burdにはそういう風にしか見られていなかったのかしら。
でも、言われてみればそう見られても仕方がない。
でも、よくよく考えてみるとどうしてこんなにBurdから一方的に執拗に責められなければならないんだろう。
元々突っ込みが多いBurdだったけど、ここまで激しく突っ込まれるのは心外だった。
時間が経って私の心に冷静さが戻ってくると、今度は次第に腹が立ってきた。
「Burdからなぜこんなに責められなきゃならないの?貴方とは何でもないんだから、どっちが本命なんだとか問われる筋合い無いわよ!」

「そうですな、貴公の言うとおり確かに私が言うのは間違ってます。我々にはそういった馴れ合いはまったくありませんからな。ですが、同行させられる度に伯爵や殿下の双方にニヤデレしてる貴公を見せられてると、どっちが好きなんだと非常にイライラするんですよ」
私、彼らと接してる時ってそんなに顔緩んでたのかしら。
「ニヤニヤしてたように見えてたとしたら、嬉しくて顔が緩んでいただけよ。私はただ親しくなりたいだけでそれ以上は・・・」

「何も望まない?いいお友達でいたいとでも?真っ赤な嘘ですな。殿下といい貴公といい、なぜ素直になれないのですか。それも私は気に障るんですよ」
「気に障るなら放っといてよ><」
「貴公のバカ行動に付き合わされる立場上そうもいかんのですよ。お聞きしますが、貴方は一度でも伯爵や殿下の立場になって考えて行動したことがありますか?」

「失礼ね、私が何も考えてないとでも言うの?」
「いえ、そうではありません。私が言いたいのは貴公は考えてないのではなく、自分のことしか考えていないということです」
「そんなことない、伯爵や殿下の気持ちもしっかり考えてるわっ」
「簡単に言い切りましたな!やはり貴公はバカですっ!全然わかってませんっ」
「さっきからバカバカって、あんまりじゃないっ!!」

「あのね、なぜ貴公は長い間Hassildor伯爵に嫌われていたのか、わかりますか?わからないでしょうなあ」
「
ぱかぁ!伯爵には初めから嫌われてなんかないもん!シャイだから受け入れてくれなかっただけよ!!>Д<」
Burdはふう、と溜息をついて言った。
「本当に鈍感ですな。貴公はね、自分の事ばかり考えて相手のことを考えずに感情を押し付け過ぎなんです。伯爵はそれを本気で疎ましがってたから、てっきりダメになると思ったのに、私がしばらく離れている間に仲良くなっているわ、いつの間にか殿下とも親しくなっているわ・・・一体何なんですか貴公は」
説教なのか悪口なのかわからないBurdの言葉に、私はますます腹が立ってきた。
「伯爵が嫌っていたとしても、今は理解してくれてるわ!それに殿下と仲良くなって何がダメなのよ!」
「帝都に行くのはダメだと言っても、殿下と仲良くなるのはダメだとは一言も申しておりません。わかってませんな貴公。ほら、伯爵の存在を知った殿下が今どんな気持ちになっているか、自分以外の気持ちを考えられるなら、わかるはずですぞ」
Burdとの口喧嘩に気を取られて、ずっとマーティンを放っていたことに気付いた。
「あ・・・殿下」

マーティンの顔を覗き込むと、彼は黙ったまま考え込んで、じっと遠くを見詰めていた。
その横顔には険しい表情が浮かんでいた。
・・・やっぱり怒らせてしまったのだろうか。
「殿下、ごめんなさい。伯爵のこと話さなかったの、怒ってる?」
「いや・・・」
マーティンは横を向いたまま返事を返した。

「怒ってはいないよ、ただ少し驚いてね・・・」
なんだかマーティンの言葉が上の空になってる気がした。
「な、何を驚いたの?殿下が今までのこと話せと言うなら、正直に何でも全部話すわ」
「そうか、聞きたいことはあるが、それはもう後でいいんだ。私は疲れたからもう部屋に戻って休みたい」
マーティンは部屋で見た時よりも、疲れが増しているように見えた。
「そうだったわ、ごめんなさい、ずっと寝ていなかったのよね・・・でも、眠れそう?眠ると悪い夢を見るんでしょ?」

「そうだが、めまいと動悸が酷いしもう限界だ・・・明日は帝都に君と行かねばならないからね、無理にでも体を休めないとな」
マーティンの背後から、Burdがやれやれといった感じで言った。
「殿下、何がなんでも行くつもりですな。はあ、まったく二人とも世話の焼ける・・・もう今日はここまでにしましょう。これ以上話し合っても言い争いになるだけですから。殿下はもう御休みになられて下さい」
「あふ・・・うむ、そうする。今何時だ?ああ、いい、もう何時でも構わん、ではおやすみ」
マーティンはあくびをしつつBurdに言うと、私の手を急に掴んだ。
「・・・え、ちょ・・・ちょっ、ちょっと殿下・・・」

慌てる私に構わず、マーティンは私の手を引いたまま部屋がある方へと歩き出した。
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