あれから一週間経った今日、私はクラウドルーラー寺院に戻ってきた。

"Sheogorath"に身体を他っ取られていた時の記憶はなく、何があったのかは、マーティンが教えてくれた。
Sheogorathが殿下に何をして、何を話したか。
その場にいながら不在だった私にとっては、俄かには信じがたい話ばかりだった。
このままいくと私は死ぬとか、それはマーティン自身が破滅を呼ぶ象徴だからなんて、そんなバカなこと全部狂言に決まっているじゃない。
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・・・でも、彼は私の口から、それを予言した。

Sheogorathに操られていた影響なのか、彼から開放された後、体力だけが取り得の私は柄もなく体調を崩し、Skingradの自宅に戻ってからは原因不明の高熱に襲われ寝込んでしまい、しばらく起き上がることも出来なかった。
ようやく体調も戻ったので、こうして寺院に戻って来た訳だけど、あれから殿下はどうしているんだろう。
私が知らない間の出来事を話している時、すごく辛そうな顔をしていた。
その時は、私は冗談でしょと笑いながら一蹴してしまったけど、マーティンの暗い表情が晴れることはなかった。

マーティンの、あの辛そうな顔は、以前どこかで見た覚えがあった。
どこでだったかな・・・
確かに見た記憶があるのだけど、そんな表情を見せる機会なんてこれまであったかしら。
扉を開けて寺院の中に入り、いつも殿下が本を読んでいる場所に行くと、いつも座っているはずの椅子に、マーティンの姿はなかった。

あれ、なぜいないんだろう?
席をはずしているのかな。
私がキョロキョロしていると、横から声をかけられた。
「貴公、来てたんですな。もう体の調子は良くなったんですか?」
声の主はBurdだった。

「Burd、この前はごめんなさいね。具合はもう良くなったから大丈夫よ。ねえ、殿下の姿が見えないけど、どうしたの?」
私が尋ねると、Burdは西棟に繋がる扉を顎で示し、浮かない顔をして答えた。
「実は・・・殿下はですな、ここ数日自室に篭られたままなんですよ」
「え?」
「何か悩んでいるらしく、いつもの調べ物もする気にならないと、ご覧の様に大事な資料もここに放置したまま、ずっと部屋から出てこんのです」
「それは心配だわ、私、様子を見てくる」
マーティンの私室がある西棟への扉の方に歩きだすと、Burdが自分も行くと言って私についてきた。

「私も同行します。殿下のことは心配なんですが、会おうとしても誰も部屋に通すなと見張りに命じていて、会わせてもらえんのです」
「そんな・・・殿下、一体どうしちゃったの?すぐに会ってみないと!」
私は急いでマーティンがいる部屋へと向かった。
部屋へ入ろうとすると、見張りのブレードが慌てて制止してきた。

「お待ち下さい、ここから先は誰も通すなと陛下に命じられております」
「そんなの知らないわよ、私は殿下に会わなきゃならないんだから入らせてちょうだい」
「いけません、絶対に通すなと念を押されています」
「こんな時に何言ってんのよ、会うったら会うの!」
「ダメです!」
ブレードは頑として中へ入ることを許可してくれなかった。
何度頼んでもダメなので、業を煮やした私は扉の向こうにいるはずのマーティンに向かって大声で叫んだ。
「マーティン殿下!私よ、部屋に入れて!!」
・・・返事が無い。
「お止め下さい、陛下は誰とも会おうとはしないのです。ジョフレ殿でさえー」
「だからってこのままほっとけないでしょ!」
とっさにブレードに言い返した。
中にいるマーティンに声が聞こえていないはずは無い。
私は呼びかけても返事がまったく無いことに不安を覚えた。
同じことをBurdも思ったらしく、扉を眺めながら呟いた。
「どうされたんだ殿下は・・・このまま放っておくのはまずいんじゃないか?」
「まーくん!><返事してっ!」
「うおっ、貴公、そんなでかい声で叫んだら扉が吹っ飛びますっ」
Burdが私の声のでかさに驚いてたじろいだ時、ようやく中から声が聞こえた。
「・・・友か?」
「マーティン殿下!」
私は扉と壁の隙間からもう1度呼びかけた。
「私よ、中に入っていい?」
しばらくの沈黙の後、入ってくれ、と疲れきった声が聞こえた。
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