「だ、誰だ?いつの間に其処にいたのだ」

マーティンは驚いて、その声がした方を見た。
突然現れた声の主は、マーティンのすぐ側に立っていた。
「前を失礼致します」
男はマーティンに軽く会釈をして、Sheogorathに近寄った。
「我が王、こんな所に居られましたか。捜しましたよ」
SheogorathはBurdに向かって上げていた手を下げ、辺りをキョロキョロと見回した。
「んん?なんじゃ、聞き覚えのあるいやーな声が邪魔しおったぞ」

黒のスーツ姿の男は、落ち着いた声で諭した。
「後ろですよ、後ろ」
「何、後ろじゃと?・・・ギョッ!」

振り返ったSheogorathは後ろに立っていた男を見て面食らった。
「Haskill!?何でここにおるのじゃ!!」
「やはり我が王でしたか・・・勝手に宮殿を不在にするのはお止めくださいと何度も御注意したというのに・・・。どこを
徘徊しているのかと、私はあちこち駈けずり回っていたのですよ」
「
徘徊とか言うなwまるでワシがボケておるような言い方ではないか」
Sheogorathの言葉は怒っていたが、顔はにこやかだった。

Haskillと呼ばれた男は、ゆっくりと落ち着いた言葉使いで淡々とたしなめた。
「王の領域内でふざけるのはまだ結構ですが、それ以外の場所で目立つ行動をしてはなりません。面倒なことになりかねないのですから」
「目立つことはしておらんぞい。ちいと用があってお忍びでこっちに来ておっただけではないか」
Sheogorathは、ふて腐れながら言い返した。
「その割には派手に行動されましたな、我が王。ここら一体、大地どころか空まで王の領域の世界に変えているではありませんか・・・お陰で王の居場所を突き止めることができましたが・・・悪戯もほどほどになさって下さい」
Haskillは無表情のままSheogorathを宥めた。
「怒らんでもいいじゃろ、Haskill。ワシは悪戯だけが目的ではないぞ。ちゃんとした目的があってここへ来たのじゃ。この女をワシの元に呼び寄せなければならん」

「・・・愛人ならすでにタチの悪いのが1人いるではありませんか。あの女を怒らせたら、いくら我が王でも手に負えなくなりますよ」
「そのつもりで連れて行こうとしたワケではなわい!・・・まあ、それでも構わんが」
Sheogorathは倒れて気を失ったままのMiariを見下ろしながら言った。
それを聞いたマーティンは驚いてSheogorathに突っかかった。
「愛人だと?貴様は散々予言めいた御託を散々並べて不安にさせておいて、実際はそんな不純な動機で友を連れ去ろうとしたのか!」

「違うと言っておろうがプリンス。妙なところでお主は噛み付いてくるんじゃな」
Sheogorathは向き直って反論した。
「今回はー・・・歯がゆいことじゃがこちらが引き下がろう。Haskillちゃんに見つかってしまったからには、恐ろしくてヘタなことは出来んのじゃ」

「どうした、随分大人しくなったな。さっきの威勢の良さはどこへ行った?そこのジョフレ・・・じゃない、似ているから間違ってしまった。Haskillとやらは、お前よりも上の者なのか?」
マーティンが尋ねるとSheogorathは鼻をフンと鳴らした。
「バカを言うな、Haskillはワシの侍従じゃよ。よう喋る男で、いつもワシのやることなすことに口を出してくるのじゃ。せいぜい今の内にその女と楽しく過ごしてやれ。ワシが教えた破滅はそう遠くない所でお主たちを待っておるからの・・・」
Sheogorathは気の毒そうな顔をしてマーティンに言った。
「ではワシは帰るとするか。うう、遠出すると腰にくるのう~はよ来んかHaskill」

SheogorathはHaskillを呼び、くるりと背を向けて階段を下りだした。
「待ってくれ!」
マーティンは帰りかけた二人を呼び止めた。
「そこの・・・Haskillとやら」
「はい、何か?」
Haskillが振り向いた。

「この寺院の風景は何とかならないか?君の王の悪戯でこうなってしまったらしいんだ。元に戻らないと困るんだが・・・」
マーティンが助けを求めると、Haskillは動じた様子もなく、普通に答えた。
「これでしたら・・・この景色はすべて我が王の悪戯による幻覚ですから・・・すぐに消えるでしょう」

「幻覚?これ全部か?」
「ええ、王にしては軽い悪戯ですが。我が王が領国に戻られれば何もかもすべて元に戻るでしょう・・・どうも他人様に御迷惑をお掛けしてしまって申し訳ありませんでした」
「そうか、それならいいんだ」
マーティンはホッと胸を撫で下ろした。
「もう1つ聞きたいのだが、彼が言っていたことは本当なのか?破滅がどうとか教えられたのだが」

「王の言うことは本気にされないで下さい・・・小難しいことや気まぐれなことばかり言っていつも周囲の者を困らせているようなお方なのです」
「・・・信じなくていいのか?」
「信じようが信じなかろうが結果は同じじゃ、プリンス」

Sheogorathが振り向いて言った。
「定められた運命は変えられん、人如きにはな。ワシの言うことに黙って従っておれば変えることは出来たんじゃよ。プリンスはワシの忠告を蹴って、破滅への道を選んでしもうた。運のない男と言うか、可哀想な奴じゃ」
その目には憂いが浮かんでいた。
「貴様が言う破滅とは、確かに訪れるものなのか?」
「ワシが来た様に、破滅もお前が望まぬともいずれ・・・」
Sheogorathの言葉を遮るようにHaskillが口を挟んだ。
「王よ、お止めください。これ以上
ホラ話を吹聴してはなりません」
「
ホラ話とか言うなw本当じゃと言うとるのに。ああもう知らん、どうでもいいわい。さらばじゃ、破滅を招く暗黒のプリンスよ」
そう言ってSheogorathは早足で階段を下り門から出て行ってしまった。

「・・・」
マーティンは黙ったままSheogorathが去っていった方向を見詰めていた。
「う・・・」
背後でMiariの呻く声がした。
「貴公、大丈夫ですか」
「おお、友よ、気が付いたか。しっかりしてくれ」
Miariは気を取り戻し、ゆっくりと身体を起こした。

「・・・私・・・えっと・・・」
Miariは頭を押さえながら思い出そうとしていた。
「何かすごくびっくりして・・・思い出せないわ。何だったかしら」
「・・・話すべきなのか?」
マーティンはさっきの出来事をMiariに話すべきなのか迷った。
「止めておくべきですよ殿下。また気絶されたらどうするんですか」

「私、気を失っていたの?」
Miariは立ち上がって、マーティンに尋ねた。
「何も憶えていないのか?」
「・・・憶えてないわ。私、家で寝てたはずなのに、どうしてここにいるの?」
「ある人物が君をここへ連れて来たんだ」
「え・・・誰が?」
「それは、後で・・・中に戻ってから話すよ。その格好では外は寒すぎるだろう」
「やだ、寒いと思ったら私、裸足のままじゃない><」
(破滅か・・・)
マーティンは、Sheogorathの言葉を思い出し、憂いの表情を浮かばせてMiariをじっと見た。

「どうしたのよ、殿下。そんな心配そうな顔で私を見て・・・何だか恥ずかしいわ」
Miariは顔を赤らめた。
「ん?ああ、すまないね。君が連れ去られなくてよかったと思ってね」
「連れ去られる?」
Miariが聞き返した時、周囲にいたブレード達から驚きの声が上がった。
「あっ、いつの間にか回りが元に戻ってます」
「殿下、見てください、空も周りの景色も元に・・・!」
皆が見回すと、周囲の風景がいつもの寺院に戻っていた。

「結局なんだったんですか殿下、あの者達は。空を飛んでこいとか、私に何をしようとしていたんですかね、あの爺さん」
Burdは不可解そうに首を捻りながら尋ねてきた。
「私にわかる範囲になるが皆に説明せねばならんだろうな。皆、寺院の中に入ってくれ」

「・・・殿下、私何かした・・・の?私は大丈夫だから教えてちょうだい」
Miariは不安の表情を浮かべていた。
「友は疲れているようだから、少し休んで元気になったら話してあげるよ。大丈夫、不安になることはない」
マーティンは安心させる為に笑顔を見せて優しく話しかけた。
破滅を招く暗黒、救うのは狂気・・・
嘘か本当か、Sheogorathの『救い』を私が拒否した事で、友の破滅への道を辿る運命が定められたとでもいうのか・・・?
マーティンの心には、破滅を説くSheogorathの言葉がいつまでも引っかかり、離れることがなかった。
END
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