「な、なあ、そんなに泣かないでくれないか。私はドラゴンを借りて、船を捜し、早くこの危険な所から脱出したいだけんだ」
「・・・えぐえぐっ・・・なんで・・・ここが危険なのよ・・・ぐすん」
デカブツは泣き声のまま私に問い返した。

「危険すぎるじゃないか。猛獣はいるし、夜になれば隕石が雨の様に降ってくるんだから」
デカブツはひっくひっくと嗚咽を漏らしていたが、隕石という言葉を聞くと、ピタリと泣き止み、何か思い当たるような顔をして、すっくと立ち上がった。
「隕石・・・」

デカブツはうーん、と唸った。

「もしかしてそれ、私のメテオ魔法じゃないかしら」
[3回]
魔法?
どういうことだ?
デカブツは手振りを交えて説明しだした。
「私、魔法が全然使いこなせないのが悔しくって練習してたのよ。夜にこっそりとね。なぜかって、脳筋で通ってる私が魔法を使ってる姿を人に見られるのが嫌だったからよ。で、ここ最近は新しく手に入れたメテオにハマっちゃって、毎晩それで流れ星を降らせて遊んでたの」
ということは、あの隕石の雨を降らせていたのはこのデカブツなのか?
どうやらカボミンたちがそれに迷惑していたことに気が付いてないようだ。
カボミンたちの為にも注意した方がいいな。
「君のそのメテオ魔法とやらのお陰で、夜になったら外出できず迷惑している者たちがいるんだ。こんなことを言うのは悪いが、安全な夜のために、危険な魔法を使用するのは止めてくれないだろうか」

デカブツはでかい目を真ん丸にして驚いたふうだった。
「ええ~、それほんと?迷惑してる人がいるのなら止めておかないといけないわね・・・でも、メテオってガンガン降らせるのが楽しいんだけどな~><」
「そこをなんとか・・・私が帰っても彼らには安心して暮らしてほしいんだ」
「帰るってどこに帰るの?家遠いの?」
「ミスティック星に帰らなければならないんだ。私はこの星の住人ではなく宇宙人なんだ。宇宙船に乗ってここに来たのだが、その宇宙船がどこかへ行ってしまい、それを捜すために空を飛ぶ乗り物を捜していたんだ」
「宇宙船?それってあれのこと?」
そう言ってデカブツは北側の空を指差した。

木々の間から見える何かを示しているようだ。
その指差した先を私も目で追うと、なんとそこには見覚えのある物体が空中にポカンと浮かんでいた。

私は目が点になった。
何ということだ・・・あれはライトメア号ではないか!
なぜ、あんな場所に浮かんでいるんだ。
しかも、あの場所の真下あたりが、最初に私が目覚めた場所ではないか?
そして、デカブツは私が驚くようなことをのたまった。
「一昨日だったかしら。夜空を見ていたら、ヘンなのが空を飛んで来たから、攻撃魔法をあれにガンガンぶつけて遊んでたのよ。何度か命中したら動きが止まって、ふっと消えちゃった。さっきまた姿を現したみたいだけど、もしかしてあれが貴方の宇宙船だったりして」
・・・・そうか。
私の船が操縦不能に陥った原因は100%このデカブツのせいだ。
魔法を受けたショックで、船内のメインシステムが一時ダウンしたに違いない。
ライトメア号のバックアップシステムが働いていたようだが、それも異常を起こしておかしな警告を出し、緊急避難テレポート機能を起動させ、船外に私を脱出させた・・・。
そして、攻撃を受けたと判断してシールドを張り船体を隠していたのだろう。
「その通り、あのヘンなのが私の宇宙船だ」
「・・・ご、ごめんなさいっ」
デカブツは慌てながらペコペコと頭を下げた。
「もうヘタに攻撃魔法は使わないようにするわ。あ、いいのよ、やっぱり使いこなせないなって感じてたから。さっき虫に襲われた時も、魔法使うこと頭になくて結局剣だけで戦ってた私だし。魔法はもう召喚と回復だけにしとくわ」
デカブツは意外にも、あっさりと非を認めてくれた。
よかった、これでカボミンたちも夜を恐れなくてすむだろう。
デカブツはしゃがみこんで黄カボミンをまじまじと見つめて言った。
「この黄色い虫さんたち、良く見るとどこかのガードにソックリじゃないの。私があんまり彼らを苛めるから鬱憤が虫にでもなって仕返しにきたのかしら、って、まさかね」
デカブツは笑顔を浮かべ、ニヤリと笑った。
「ね、ドラゴンちゃん貸すから、それであの宇宙船まで飛んでいくといいんじゃない?」
デカブツは言った。
そうだ、そうすればいいんだ。
ライトメア号のテラスまで行く事が出来れば、船内に戻るのは簡単だ。
船に乗り移ったらドラゴンちゃんを返してあげてね、とデカブツは念を押した。

「さあて、私はシャドウメア探しにでも行ってこようっかな。私が他の子と仲良くしたらすぐにいじけてどっか行っちゃうんだから・・・ブツブツ」
デカブツは文句を言いながら、ふら~っとどこかへ去ってしまった。
カボミンたちとの別れが近いようだ・・・。
彼らを集めて説明しなくては。
私は黄カボミンを連れて、逃げていった赤と青カボミンを捜した。

彼らはすぐに見つかった。
近くの平原で彼らはポツンと不安そうに寄り集まっていた。
私は皆を集め、ドラゴンのいる場所に連れて行った。
私はカボミンたちに、もう夜が危険でない事、そして、自分は故郷の星へ帰る事を伝えた。

彼らは黙って聞いていた。

表情が変わらないので伝わっているか不安になったが、彼らがなんとなく寂しそうにしているのはわかった。
ありがとう、カボミン。
私は彼らに向かって感謝の意を込めて敬礼した。

カボミンたちも、私のマネをするように敬礼していた。
中には手を振ったりしている者もいる。
別れが来たことを理解してくれたようだ。

私は彼らの姿を見ていると辛くなり、背を向け、ドラゴンの元へ近付いた。

大きいのでどうやって乗ろうかと考えながら手を伸ばすと、不思議なことにドラゴンの体が縮んで、丁度私が乗りやすいサイズの大きさになった。
・・・すごいな。
私はドラゴンの背によじ登った。

ドラゴンの背から見るカボミンたちはとても小さく見えた。
彼らは敬礼したまま私を見上げていた。
彼らを見ていると、どういうわけか涙がこぼれそうになった。
たった二日しか彼らと共に行動していないのに、私にとってはかけがえのない友のような大切な存在になっていたのだ。
しかし、私は帰らなければならない。
私は彼らへの情を振り切るように、一気にドラゴンを上昇させた。

あっという間に地上が遠ざかり、木々が小さくなっていく。
上空に見えている宇宙船を目指して、私はドラゴンを旋回させながら近付いていった。

宇宙船と同じ高度まで上昇し、私は宇宙船のテラスへ向かってドラゴンを誘導した。

テラスに無事着地した私はドラゴンの背を降り、地上を見下ろした。

もう、カボミンたちと別れた場所がどこかさえもわからない。

もしかして彼らはまだ私を見送ったままなのだろうか。
ドラゴンに合図をすると、一声鳴いて空中へと飛び去っていった。

これであのドラゴンは、デカブツのところへ帰ることだろう。
私はロックを解除するスイッチを押し、船内へ入った。

すぐにコントロールルームへ向かい、操縦席に着いた。
システムを確認すると、すべて正常に稼動しているようだ。

ミスティック星までの軌道ルートをライトメア号に指示していく。
機器のランプはすべて正常に点灯している。
自動回復装置が上手く機能したようだ。
私はライトメア号のメインコントロールを操作し、空中停止用の低出力ブースターからメインエンジンに切り替えた。
燃料注入完了のランプが点灯しメインエンジンが再起動したのを確認すると、私はレバーを操作し出力を上げた。

推進ロケットエンジンのノズルから勢い良く高熱の炎が噴射した。
ライトメア号は再び宇宙へと向かって発進した。
ライトメア号の推進力は次第に増していき順調に高度を上げていった。

これで星へ帰ることが出来る。
・・・嬉しいはずなのに、とても寂しい気持ちだった。
私は船を操縦しながら、カボミンたちを思い出していた。
もう二度と彼らに会うことはないだろう。
だが、君たちカボミンの事は絶対に忘れないよ。
短い間の付き合いだったのに、まるで長年の友のような存在にも思える。
この出来事は、一生忘れることはないだろう。

ありがとう、カボミン。
どうか元気で。
そして、さようなら・・・。
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