数日後、再び寺院に押し売りの男がやってきました。
丁度家に居たせがれは、自分に任せるようにとお爺さんに言付け、外に出て応対しました。

「どうもどうもこんにちは。私はMD研究所のCamoranという者です。先日はこちらのおじいちゃんに本を預かってもらいまして、受け取りに参りました。ところで、せがれさんは本をご覧になられましたか?」
せがれは胡散臭いセールスマンを撃退せねばとガンと睨みつけました。
「いいや、見ていない。読むわけがなかろうが。読めば難癖つけて金を取るのが見え見えだからな」

セールスマンは、疑ってかかるせがれの言葉を笑いながら一蹴しました。
「ははは、そんなあこぎな商売は我々はしておりませんよ。あの本は、お客様が期待するような情報は載ってないですからね。排水溝のぬめりをばっちり取る方法や、カビを発生させない方法なんてものしか載ってませんから」
「なに、そんなことがあの本に書かれているのか」

せがれが示した興味深々な反応を見て、セールスマンは目をキラリと光らせました。
[0回]
「はい、洗濯物に皺をつけない裏ワザなども載っていますが、お客様にはそんな大した情報ではございませんよね」
「いや、それは少々気になる・・・むう、しかし如何せん値段がぼったくりすぎだ」
「あの本、ただで差し上げてもいいんですよ」

「なんだと」
「ただし、こちらの商品を買っていただくことが前提になります」
そう言ってセールスマンは持ち込んできた赤い筒を指しました。
「これはなんだ?こんな変な置物などいらん。とっとと持って帰ってくれ」

「まあまあまあまあ!せがれさん、まずは私の話を聞いてくださいよ。これはですね、火を消すすばらしい道具なのです」
「火を消す?火など水で消せるではないか」
「火事の時、側に水がいつもあるというわけではありませんよね。そんな時これが役に立つのです。火を扱う場所に常置しておき、火事になった時はピンを抜き、ホースを向けてレバーを押すだけで中から消化剤が吹き出し火を一瞬で消してしまうのです」

「一瞬か・・・しかしそんなもので鎮火させるより、氷結魔法を使った方が・・・」
「これはMPを消費しないんですよ。それに魔法どころの威力ではありません。多少の失火・・・例えばKvacthの火事もこれがあれば最小限の被害で食い止められたと言われています」
「なんだと!まさかそれさえあればKvacthを救うことが出来たのかッ」

「ええ、これを一家に一台置いておけばKvacthの大火事は防げたことでしょうに。今なら1本10000ゴールドで、5本セットなら40000ゴールドと一本分おトクなお値段となっております」
押し売り・・・それは卑怯な手を使い、法外な値段で物を売りつけてくる犯罪である。
我々は断固として押し売りに屈せず戦っていかねばならないだろう。
終わり
ドラマティックピクチャーシアター シーズン4
『押し売りはお断り』
製作統括
Martin Septim
監督
Martin Septim
原案
Martin Septim
脚本
Jauffre
出演
Martin Septim
Jauffre
Manker Camoran
ナレーション
Martin Septim
製作協力
深淵の暁劇団
Cloud Ruler Temple イベント企画部
制作著作
Cloud Ruler Temple
このドラマはフィクションであり
登場人物・団体名等は
マンカーとクヴァッチ以外
架空のものです。
ツッコミどころ満載な紙芝居に、Burdは必死に耐えていた。
しかし最後の最後でBurdはうっかりツッコミを入れてしまった。

「最初にドキュメンタリー(実話)って書いてたじゃないですか!なんで最後にフィクションにしちゃってるの!?」
マーティンは不服そうな顔をした。
「Burdよ、そこはツッコミするところではない。ジョフレよ、減点-50」
「御意」

「ぐああー!」
Burdはなぜ宿敵のCamoranがいるのか、深淵の暁
教団が深淵の暁
劇団になっているのか、押し売りはお断りとかフィクションだとか言ってんのに消火器が実際に寺院にいくつも置いてある理由とか本が鍋敷きになっているワケとか、おじいちゃんとせがれ部分にもツッコミたかった。
しかしそれらをすべてつっこめば大減点となり、昇進試験は不合格になるのは目に見えている。
きっとこれは殿下の罠に違いない。

昇格を取るか、それともこの胸のつっかえを取るか。
もしかしたら殿下だけでなく、Mythic Dawnもグルになって自分をおちょくっているのではないかという余寒がBurdの心を過ぎった。
よくよく考えてみると一向にBruma防衛戦が始まる気配はないし、寺院どころか世の中もいたって平和そのものだし。
Burdはとうとう耐えられなくなり、不合格覚悟でマーティンに尋ねた。
「あのう殿下、なぜ宿敵のCamoranが殿下と一緒に登場しているのですか。それとその鍋敷きはあの呪われてる本ですよね」

「復讐だとか征服などもう流行らんのだ。これからの世の中はノリが大事だぞBurdよ」
「はい?」
「お前は知らなかっただろうが、我々は水面下できっちり和平作戦を進めていたのだ。方法は秘密だが、すでにMythic Dawnは脅威ではない。もちろんDagonもな。この本の呪いはなくなり、保温効果のある鍋敷きとなった。おかげでいつでも熱々のおでんが食べられるようになったのは言うまでもない」

Burdはマーティンの言葉に衝撃を受け呆然となった。
「よし、これでお前の面接試験は終了だ。Burdよ、隣の部屋に戻って次の受験者を呼んできてくれ。次はー・・・」
元の部屋に戻り席に座ると、Burdは一気に力が抜けてしまった。

いつの間にか脅威は消え平和になっていたのだ。
喜ぶべきなのだろうが、このポッカリ感はなんなのだろう。
こうも簡単に宿敵がいなくなり、平和になってしまっていいのだろうか。

Burdの心の中に、Camoranが予言していたような気がする『新たなる夜明け云々』が虚ろに聞こえ、これが真の夜明けなのかもしれないとぼんやり思った。
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