ここクラウドルーラー寺院では、大変な事件が起きようとしていました。

「今日はいい天気だの~洗濯物も良く乾いておるようじゃ」

皆が出払ったクラウドルーラー寺院に残っていたのは、年老いたジョフレ爺さんだけでした。
ドンドン!ドンドン!

突然寺院の外から、扉を叩く音がしました。
何事だろうかと耳を澄ますと「こんにちは~」「あの~」「~ですがー」と誰かが叫んでいましたが何と言っているのか良く聞き取れません。

どうやらお客さんが訪ねて来た様です。
誰も応対する人がいないので、お爺さんは痛む腰をかばいながら、階段をよっこらせと下りていきました。

「はいはい、どなたかな」

ジョフレお爺さんは大声を出して門の向こうにいるお客さんに話しかけました。
「~です、開けてもらえませんか」
扉が閉まっているせいか、肝心の相手の名前の部分が聞き取れません。
多分近所の人が訪ねて来たのだろうとジョフレ爺さんは思い、扉を開けてしまいました。

「ハイハイどうも、こんにちは」
そこに居たのは長身でヒゲ面の中年男性でした。
見るからに態度がでかそうなその人物は、お爺さんの姿を見るとつかつかと近寄り、じいっと見下ろしました。

「お爺ちゃん、ご家族の方はいらっしゃらないのかな?随分前から何度も呼んだんだが誰も出てこないし返事もなくてねえ」
「はあ、今は全員出払っていて、ワシは留守を任されとりますのじゃ。おたくはどちらさんかな?」
お爺さんしかいないと知った中年男の目がキラリと光りました。
「それは丁度良かった。お爺ちゃんはいい人そうだから私も仕事のやりがいがありますよ。ねえ、お爺ちゃんや、家族の人たちに最近、困ったことは起きていないかな?」

「困ったことと言うと、腰が痛くて歩くのが辛いとかですかの」
「そうそう、腰痛で悩んでいるお爺ちゃんみたいな人は多いねえ。あと、家の中が汚れやすくていつも掃除をしなければならないとか、大所帯で洗濯物が多くて困っているとか、今日の夜ご飯は何にするかいつも悩んでいるとか、いきなり現れるゴで始まる4文字をどうにかしたいという悩みもこの家の人たちにはあるんじゃないかな」
ジョフレお爺さんは驚きました。
中年男が話す内容はすべてせがれがいつもぼやいていた悩みを言い当てていたからです。
「おお、お兄さんはすごいですな!そうそう、せがれがそんな悩みがあるといつも言っているんですよ」

「ははは、そうでしょう。私はいろんな方々の悩みを総合的に研究しているMD団体研究所から来たMankar Camoranと申します。せっかくなので中で説明いたしますよ」
そう言ってCamoranは勝手にスタスタと寺院の階段を上り始めました。
「いやー広くて素敵な家屋ですねえ。これだけ広い土地と立派な家をお持ちなら固定資産税対策も大変なことでしょう」

「ま、待ってくだされ」
ジョフレお爺さんは、せがれに知らない人を勝手に家に入れるなときつく言われていたのを思い出しました。
痛む腰をかばいながら、慌ててCamoranの後を追いかけました。
そしてなんとか先回りし、寺院の扉の所に立ち塞がってCamoranを引き止めました。

「どうか、家の中に入るのは勘弁して下さらんか。知らない人を入れるとワシがせがれに怒られますのじゃ」
「ほう、ここではせがれさんが一番偉いようだね」
「せがれがここの所帯主でしてな。ワシがこうして楽隠居出来るのもせがれのおかげですので頭が上がらんのですじゃ」

「じゃあお爺ちゃん、せがれさんにいつもお世話になっているお礼に、この本をプレゼントしてみてはどうかな」
「本ですと?いや、待ってくだされ。せがれは知らない人から物を受け取るなとワシにー・・・」
「いやいや、話を聞いてよお爺ちゃん。この本はね、いろんな悩める人たちを幸せにさせちゃうすごい本なんだ。読めばどんな悩みだって解決方法が載っているんだよ。これを買ってせがれさんにプレゼントしたらきっと感謝されると思うなあー」
「どんな悩みも・・・というと、髪の毛が薄いという悩みもですかの」

「もちろん!これを読んだらお爺ちゃんも私の様にフッサフサになれるよ。それで一冊100000ゴールドってんだから安い安い!」
「100000ゴールド!!!???」
心の中で欲しいと思っていたお爺ちゃんは腰を抜かしそうになりました。
「む、無理です。そんなお金寺院にはありませんよって・・・」

「え、ないの?せっかく持ってきたのに仕方ないなあ・・・じゃあ、この本、ここに置いていくよ。持ち帰るのは重いんでまた来た時に回収させてもらいますから」
「そ、それは困ります。置く場所なんてないです」
「これだけ広い家ならどこか置く場所あるでしょ。物置に置いてても良いからさ。置くだけならお金取りませんから」

お金を取らない、という言葉にお爺ちゃんは安心して、本を預かることにしました。
「で、なぜその胡散臭いセールスマンは4冊もこいつを置いていったんだ」

帰ってきたせがれは、家の中に置かれていた分厚い本に驚き、ジョフレお爺さんを問いただしました。
「す、すまんせがれよ・・・向こうが言うには4巻セットだから、全部置いていかないと金を取ることになると言うもんでなあ・・・」
「父さん、あれほど留守の間、知らない人を招き入れるなと言ってただろう?奴は押し売りだよ。物を置いていくのは押し売りの常套手段じゃないか」

困りはてたジョフレお爺ちゃんは、せがれのマーティンにどうしたらいいのかと泣きつきました。
「うううせがれよ、ワシは大変なことをやってしまった。申し訳ない・・・」

「大丈夫だよ父さん。次にあいつが来た時、私が応対しよう。人を騙すとはけしからん奴だ。大人しく本を持ち帰らせてやるぞ」
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