「おまえらー!私はタヌキではないッ!」

足元はふらつき、今にも倒れそうな危なっかしげな中腰姿勢でマーティンは三人組を指差し、猛抗議した。
「断じてタヌキではないッ!今まで事あるごとにタヌキと呼ばれ続けて早50年!私は実に納得いかん!タヌキに似ているなどと私は認めん、絶対に認めんぞ!!」
[0回]
「ついさっきタヌキがいると鏡を見ながら笑っていたのは誰でしたかな」
マーティンは横からのBurdの呟きを無視して、一人怒りまくっている。
「いいか!?タヌキというのは山寺にひょっこり出現するものと相場がきまっている!ここは帝都だ。都だぞ?帝都にタヌキがいるワケなかろうが!」

「ああ・・・だからクラウドルーラー寺院は山の上にあるんですな」
泥酔したマーティンは自分が何を言っているのかわからず、Burdのツッコミも聞こえていないらしい。
3人組は幸か不幸かマーティンをただの酔っ払いとしか思ってないらしく、チッと舌打ちして睨みつけた。
「1人でごちゃごちゃうるせーんだよおっさん。どうみたってあんたタヌキじゃねーか。タヌキの分際で因縁つけんじゃねーよ」
なんだと!とマーティンは怒鳴リ返した。
「タヌキの分際でとはなんたる暴言!タヌキに失礼だぞ!タヌキは危害を加えることのない愛すべき可愛い動物だ。タヌキを侮辱するのはこの私が許さん!!」

「なんだかんだいいつつ、タヌキ擁護派なんですな殿下」
マーティンはBurdのきつめのツッコミなど耳に入らないらしく、奇妙な構えをとった。
相変わらずフラフラとしていたが、その両手の構えは杯を持つ形を現し、動きも舞を踊っていような不思議な優美さがあった。
「なんだその変な構えは。酔っ払いが戦おうとしてるのか?ひでーもんだぜ、あっはっは」
チンピラはマーティンの滑稽な構えに大笑いした。

だが、マーティンは低く落ち着いた声で淡々と言った。
「・・・いいか、お前に3つの忠告を聞く時間をやろう。1、友の尻を触った事を謝れ。2、タヌキ発言を撤回しろ。3、抵抗はやめて降参しろ。今の私はいつもの優男ではない。何をしでかすかわからない危険な男だ、気をつけたまえ」
「はぁ?なにを気ぃつけろって?寝言抜かすのも大概にしろやおっさん。さっきは油断したが、本気出せば酔っ払いの1人ぐらい倒すのちょろいんだよ!」
チンピラは威勢良く叫んでマーティンに殴りかかった。
だがマーティンは素早く攻撃をかわし、拳を相手の腹部に目掛けて突き出した。

それが当たった瞬間、チンピラは弾かれ跳ね飛ばされた!
「うおあっ!?」
チンピラは背後の壁まで吹っ飛ばされ、壁に背を打ちつけ、その場に崩れ落ちた。

「く・・・くそう・・・おっさんなのになんだこの強さは・・・・ガクゥ」
チンピラは気を失い、動かなくなってしまった。
「な・・・何が起きやがったんだ?」

「アイツが・・・ケンカで負けた事がねえアイツが一撃で倒されちまった!」
2人は一瞬の出来事が信じられず目を疑った。
しかし、倒れこんだ仲間はいっこうに起き上がる様子がない。

「隙だらけだぞチミたち」
「ヒィィィッ!」
2人はマーティンがこちらを見ているのに気づいて震え上がった。
「柔と剛、虚と実を駆使し、敗北の中に勝利を求める・・・私の拳はこの世を正す為に閃き、龍の炎のごとく燃え上がるであろう。Akatosh神拳よ、永遠なれ」

マーティンの意味不明な口上と構えに、残されたチンピラ二人はさすがに恐れを感じずにはいられなくなってきた。
「ち、ちくしょう!なんなんだテメー!ただもんじゃねえな?一体どこのグループのボスだ!?」
「うむ、知りたければ教えてやろう」
マーティンはゆっくりとAkatosh神拳基本ノ構えに戻し、言い放った。

「私は・・・Akatosh神拳を人々に教え広める為に諸国漫遊している
魔陳道士だ」



PR