1人だけの室内で、私は机の上の日記とにらめっこしていた。

「まーくんが戻ってくる前に書いておかなくっちゃね」
初めはなんの変哲もない旅の記録だけだった私の日記は、いつの間にかおじさんたちの話だらけになっていた。
最近のページなんてほとんど、マーティンのことばかり書いている。
・・・自分で読んで恥ずかしくなるぐらい、まーくんのことばかり。
[0回]
今日は、えっと・・・と一日の出来事を思い出しながら書き込んでいく。

寺院を出発してから帝都へ、そこで起きた出来事、そしてマーティンを宮殿に案内したけれど、良い結果をもたらさなかったこと。
私はマーティンを元気付ける為に、自分の存在に自信を持ってもらいたくて帝都に一緒に来たはずだった。
彼の存在意義を教えてあげたいのに、未だそれは叶っていない。

そして、その願いとは逆に、マーティンの好意を怖気づいて受け入れられない自分が情けなかった。
私はマーティンのことが大好きだった。
でも、伯爵への罪悪感が心の重荷になって、彼の好意を拒絶してしまってる。
最後にこう書いて、私は日記を閉じた。
『・・・いろんなことをわかって欲しい、知って欲しいと考えすぎて、もう、どうしたらいいのか、わからなくなってる。
それでも1つだけわかってるのは・・・私はマーティンを本気で愛してしまったということ。
マーティン、貴方は自分が居ない方がよかっただとか罪深い人間だなんて自暴自棄なこと言ってたけど、私にとっては貴方がどんな人だとしても、大好きな人に変わりはないのよ』日記を閉じて荷物入れに戻そうとした時、部屋の扉がカチャリと開く音がした。
振り返るとマーティンが戻ってきていた。

腑に落ちない顔をして、扉の向こうを気にしている。
「よく似ていたが、いるはずはないしな・・・」
ブツブツと独り言を言っている。
何かあったのかしら。
「まーくん、お帰りなさい。どうしたの?不思議そうにブツブツ言って」

「うむ・・・そこでBurdに会ったような気がしてね」
Burd?
彼は寺院に残っていたはずよね。
「やだもー、まーくんたら。Burdをおちょくることばかり考えてるんでしょ。それで他人を見間違えちゃったのよ」
「見間違い?多分そうかもしれないな。うむ、君と過ごす間ぐらいは忘れることにしよう」
マーティンは笑みを浮かべながらそれで納得したようだった。
「まーくん、フロントに用って一体なんだったの?」
私が尋ねるとマーティンは懐から白い包みを取り出して、私の前に差し出した。

「これを君に渡したくてね」
「え・・・なんなの?それ」
「チョコだよ。売ってないかと思って支配人に尋ねたら数に限りがあると言われて断られたんだが、頼みこんで何個か譲ってもらったんだ。さっきは1人で食べてしまってすまなかったね」

マーティンは照れ臭そうに苦笑いを浮かべた。
「ありがとう・・・・でも、気を使わなくてもよかったのに」
私は内心はとても嬉しいのに、あろうことか彼を目の前にした緊張のあまり、顔を強張らせながら包みを受け取ってしまった。

笑顔で受け取りたかったのに、マーティンの顔を正視できない。
「・・・まだ怒ってるのか?」

「ううん、違うの」
マーティンの顔を見れないだけなのよ><
今までにないくらいマーティンへの想いが強くなってて、まともに目を合わせられない上に、ろくな返事もできない。

マーティンに私の心の中を悟られるのが恥ずかしくて、素っ気無い態度で返してしまった。
「・・・・」

しばらく私たちはお互い黙ったままだった。
どうしよう、どう話しかけたらいいのだろうと心の中で冷や汗をかきながら戸惑っていると、マーティンが、おや?と何かに対して言った。
「友よ、その本は?」

マーティンは机の上に置かれた本を指差した。
「え、本?」
「それだよ、机の上にある本・・・いやノートか?」
ひえええっ!それ私の日記!しまった、荷物袋にしまおうとしてそのままにしてたわ!

「Diary・・・友の日記なのか?はは、君も日記を書いていたんだな、どれどれ」
マーティンは嬉しそうに私の日記に手を伸ばした。
きゃーーーーっ!
まって、この日記、まーくんには絶対見せられないわっ!!
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