マーティンは神像の足元の台座に座り込んだ。
前かがみになって手を組み、暗い顔をしたまま考え込んでいる。

「・・・マーティン」
「・・・」
「マーティン、どうしたの?なぜ私の問いに答えてくれないの?」
「・・・」
「ここに連れて来たことを怒っているの?」
「・・・怒っていないよ」

マーティンはやっと言葉を返し、顔を上げ、私の目をじっと見ながら言った。
「友よ、君にとって私の存在とはどんなものか聞かせてくれないか。隠さずに正直に答えて欲しいのだ」
「隠さずにって、改まってどうしたの?マーティンはこの国の皇帝になる人で、皆に必要とされてる大事な存在の人だわ」
「違う、他の者の話をしているのではない。君の考えを聞きたいと私は言っているのだ」
[0回]
マーティンは立ち上がり、私の前に立った。

「・・・君だけに話しておく」
それはいつもの優しい口調ではなく、感情の感じられない話し方だった。
「私はSeptimの血を受け継ぐ者としての役目は果たすつもりだ。だがこの国を治める皇帝になる気はない」
「えっ・・・なんですって?」
私は驚いて聞き返した。
「皇帝になれるのは貴方しか居ないのよ?」

「建前上はそうだな。だが皇帝という大事な存在は汚れのない、それに見合った者がなった方がいい。私の様な業の深い者がなるべきではないよ」
「マーティン、貴方はSheogorathが言ったことをまだ信じてるの?」
「信じるも何も・・・奴は私を見抜いていた。暗黒の力に染まりきっている私の本質をね」
「・・・マーティンのどこが暗黒なのよ。私には貴方が暗黒だと言われる事の方が理解に苦しむわ」

私はマーティンの過去のことをあまり良く知らない。
こちらから無理に聞き出すのも悪い気がして、彼が過去にどんな過ちを犯してしまったのか未だにわからない。
「貴方が過ちを犯して、それが心の重荷になってたとしても、これから正しい事をして皆を導いていけばいいじゃない。マーティンみたいな楽しくて優しい人が皇帝になったらすごく素敵な世界になると思うわ」
それを聞いたマーティンは、ふっ・・・と溜息にも似た笑い声を漏らした。
「楽しくて優しい人か・・・友には私がそう見えていたのか。私は君が思っている様な善人ではない。素直に相手の言うことを信じるのではなく、本心を読み、相手を疑うということも憶えなさい」
「だ、だって、まーくんって本当に面白いし、優しい人だわ。貴方の何を疑えって言うの?」

「・・・」
「・・・もう行こうか。暗くなる前に今夜の宿を探そう」

「は、はい・・・」
唯一の後継者であるマーティンが即位を辞退してしまったら、マーティンを・・・新しい皇帝を迎える為に頑張っている人たちの努力が無駄になってしまうのでは・・・。
彼が早足で出口の方へと歩き出したので、私も慌てて後を追いかけた。

マーティンは怒ってないと言ったけど、絶対怒ってる。
・・・連れて来なければよかった。
ごめんなさい、ごめんなさい、マーティン。
私は心の中で何度も謝っていた。
本心を読み、相手を疑うことを憶えなさいというマーティンの言葉と、殿下に気をつけて下さいと言っていたBurdの忠告の本当の意味を、後に私は身に思い知らされることになる。
END
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