寺院を出発した私とマーティンは、帝都へ通じる長い坂道を南下してきた。
幸いなことに野盗にも獣にも遭遇することもなかった。
帝都が見える坂まで下ってくると、分かれ道に差し掛かり、行き先を示す道標があった。

右だとChorrol、左だとImperial Cityへ。
「道標の通りに進むなら左に行くんだろう?」
マーティンに横から尋ねられ、私は道標を眺めながら答えた。
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「ええ、その先はずっと下り坂になってて、湖に出たら、えっと、あの場所はもっと東寄りだったから、Cheydinhal方面に・・・」

「Cheydinhal?友よ、帝都以外に寄る場所があるのか?」
「まーくん、帝都に向かう前にちょっと寄り道していきたいんだけどいいかしら」
天気もいいし、時間も余裕があったので、お気に入りの眺めのいい場所にマーティンを連れて行こうと私は思いついたのだ。
「構わないよ、友が行きたい所に私もついて行こう」
マーティンは快く返事をしてくれた。

「よかった、じゃあ行きましょう」
周囲の気配を感じとり、危険が無いかと長い耳を澄ませながら、私はシャドウメアを進ませた。
マーティンと二人だけで旅をすることになった時は、とても嬉しくって楽しい気分だったけど、寺院から次第に距離が離れてくると、護衛は私1人しかいないという不安感がジワジワ湧いてきた。
自分の戦闘能力に自信はあるが、マーティン自身も見かけによらず戦闘慣れしていて強い。
どこで憶えたのか、もしくは教えてもらったのか、彼の短剣捌きと魔法の腕は、一般的な聖職者の能力を優に超えている。
・・・・人間なのにエルフの私より素早く身軽に攻撃できるし。
ずうっと前、Burdとマーティンと私の3人でBruma近辺の神像まで遊びに行ったことがあって、途中モンスターに何度か遭遇したけど、ほとんど戦闘は彼らに任せっぱなしだった。

私ももちろん戦おうとしたけど、間違って殴ってしまったBurdからは『余計なことせずにすっこんでなさいっ』と怒られるし、終いには守るべきマーティンから『君は戦わなくて良いから私たちに任せてくれ』と本末転倒なことを言われた苦い出来事を思い出した。
あの時に比べたら、剣の腕は上がったのよ。
魔法は・・・相変わらず回復と召喚しか使えないけど。
でも大丈夫よ、大丈夫。
いざという時は私が命をかけて守るから。
時折マーティンと会話を交わしながら、私たちは湖の東側沿いにぐるっと南下して、Cheydinhal方面に向かう道に入った。

道を進むとすぐに目的地へ入る脇道があった。
「まーくん、着いたわ。ここで遊びがてら休憩していきましょ」

「ん?ここは農場かな、風車が見えるが」
「そうそう、広い畑があってとてものどかな場所で、景色もいいのよ。かわいい動物もいっぱいいるの」
私はマーティンを連れて農場の敷地内に入っていった。
「ったく、あの二人ときたら、まっすぐ帝都へ向かう気はないみたいですな」

二人に気付かれないようにこっそり後を付けて来たBurdは、遠くに見える風車を見上げながら不満をこぼした。
「前々から言っているのになぜ殿下は御自分の立場を弁えた行動をとって下さらないのだろうか」
はあ、と溜息をつく。

「貴公も貴公で自分が何をしてるのか、ぜんっぜんわかってないからな。恋は盲目とは良くいったが、相手が誰なのか少しは目を開いてよく見てよく考えて欲しいものだ」
Burdはブツブツと文句を言い、顔をしかめた。
「大体二人だけで行かせるはずないでしょうが・・・」
「Burd、準備は出来ているな。後は手筈通り慎重に二人に気付かれないよう尾行してお守りしてくれ」

「ジョフレ殿、わかっております。ご友人が一緒なら安心だとは思いますが、私も同行して用心するに越したことはありませんからな」
「うむ、陛下をお守りするのが我々ブレードの役目であり宿命だ。君のような有能なブレードがいてくれて私は誇りに思っている」
「コホン、あ~、ジョフレ殿。お言葉ですが、本来の身分はBrumaガードであって、正式にブレードになった憶えは・・・」
「何を言うか。君は陛下ご自身からスカウトされた強運の持ち主なのだぞ?陛下に迎えられた者はブレードとして生涯仕えねばならん。それに君ほどブレード鎧が似合う人物は今まで見たことが無い。まさしく君はブレードとなるべくして生まれた男だ」
「鎧が似合うからブレードだと決め付けられてもですな。とにかく私の実家はBrumaガード隊舎ですから。ところで、お二人は同行されないのですか?」
「残念だが、私とBaurusは残ってやらねばならないことがあるのだ」
「殿下を護衛する役目を放棄してやるべきこととはなんですかな」
「うむ、私はBruma防衛の台・・・いや計画書をまとめておかねばならん」
「・・・ジョフレ殿、今、台本とか言いませんでした?」
「気のせいだ気のせい」

「そうですか、ではBaurus殿は?」
「自分は陛下が留守の間にするべき重要任務がある」
「ほう、重要任務とは・・・」
「陛下の部屋を掃除したり、布団を干したりという重要な任務だ。戻られた時にフカフカの寝床が待っていれば陛下もさぞお喜びになって、一眠りすれば疲れもすぐに取れるだろう」
「ブレードがあんな調子でいいのか?殿下がアレだからブレードもアレなのか!?いやいや、悪口はいかんな。しかしどうも真面目にやっているのは部外者の私だけの悪寒がする、ブツブツ」

「まさか皆でドッキリ企画を立てて私をおちょくって・・・いやいや、そんな余計なことは考えてはダメだ自分。ブレードもガードも守るのは同じだから妥協して任務を遂行させねば」
二人が進んだ脇道を辿ると、閉じられた門があった。
「二人はこの先に行ったらしいな。おや、確かここは農場じゃなかったか?何しにこんなとこへ来たんだ」

このまま進んで鉢合わせするのはまずいので、Burdは少し離れた所に馬を置いて歩いていくことにした。
「ここで待っていてくれ。私は二人の様子を見てくる」

馬を残し、Burdは門を開けて敷地内に入った。
「お二人さんはこちらですかな、気付かれないように行かねば・・・」

遠く先の方からヒツジの鳴き声や犬の吠える声が聞こえる。
作業小屋の前に、馬が待機しているのが見えた。
すぐ側の畑の入口付近に、二人が立ち止まって話をしていた。
「いたいた、あんなところで何をしているんだ?」

Burdは岩陰から二人の様子をそうっと伺った。
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