シャドウメアに話しかけていると、背後から声をかけられた。
「友よ、待たせたね」
振り向くと、そこにはマーティンが立っていた。

「殿下、もう準備はいいの?」
「いいよ、いつでも発てる」
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マーティンの後から付いてきたBurdの目が、私の格好を見るなり真ん丸になった。
「貴公、どうか御無事で・・・ってなんですか、そのごちゃごちゃした格好は」

「え~、何か変?」
「帝都へ行くのになぜサバイバル小道具満載してるんです。Dive Rockへ殿下連れてロッククライミングでも行く気ですか?」
「旅の途中何が起こるかわからないじゃない。だから念のためにいろいろ持って行くのよ」
「それは面白・・・用心に越したことはないですが、それでもどこか間違ってません?。そんなのデートに行く格好としてはおかしいですぞ」
真面目にBurdが言うので、ついおかしくなって笑ってしまった。

「デート?や~ね、何言ってんのよ、Burd。私は殿下を帝都にお連れして、いろんな場所を見てまわってくるだけなの。デートよりガイドじゃない」
Burdはじいっと私を見て言った。
「貴公が殿下のことを好きで、一緒に行くならデートになるんです。ああもう、なぜ貴公まで私に一々説明させるんですか。殿下の天邪鬼な口癖がうつりましたかな」
「そう?そんなつもりなかったけど」
「一緒に居ると、言動も似てくるもんです。昨夜などずっとご一緒でしたからな・・・貴公、殿下はちゃんと約束守りました?」
「え、殿下の約束ってなんだったっけ?」
私が聞き返すと、先に馬に跨っていたマーティンが口を挟んで急かして来た。
「Burdよ、無駄に時間を取らせるな。私は早く発ちたいのだ。友の格好も色気より安全第一を考える友らしさが出ていて良いではないか。さあ、早く行こう」

「はーい」
「うお、殿下、はぐらかしましたな。さては・・・」
Burdは眉間にシワを寄せて何か言いかけたが、ここで一悶着あっても面倒なので、私はBurdを宥めるために言った。
「昨日は帝都のどこを周るか殿下とお話したぐらいよ。Burdが期待してるようなことは何もなかったわ」

「私が何を期待していると?とにかく、帝都へはお二人とも用心して行かれてください。・・・貴公の今の言葉、信じさせていただきますからな」
Burdは後半の言葉を、私にしか聞こえないような小声で言った。
「わかってるわ、じゃあ行ってきます。殿下のことは心配しないで任せてちょうだい」
皆に別れを告げて、寺院の門まで下ってくると、マーティンが何か思い出したらしく声をかけてきた。
「そうだ、友よ、1つ提案があるのだが」
「なにかしら、殿下」

「ここから先、寺院に戻ってくるまで、私のことは殿下と呼ばないようにしてくれないか。君が私を殿下と呼んでいるのを誰かに聞かれてはまずいだろう?呼ぶなら名前か・・・神父など別の呼称で呼んでほしい」
「そうね、気が効かなくてごめんなさい。じゃあ、旅の間は神父さまって呼ぶことにするわね」

「それでいい。神父の方が私も慣れ親しんでいるからね」
マーティンは微笑んだ。
下り坂の向こうを望むと、遥か遠方に目的地のImperial Cityがかすんで見えた。

殿下の身の安全を考えると、あまりゆっくりと旅を楽しむ余裕はなさそうだけど、出来る限りの事をしてあげられますように・・・と私は心の中で願っていた。
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