「貴公、帝都行きの件ですがね、私がいくら煩く説教しようが、殿下をお連れするつもりでしょ」
Burdに尋ねられて、私はコクリと頷いた。
「ごめんね、どうしても殿下に見せたい場所が帝都にあるの・・・」

敵に命を狙われているマーティンを帝都まで連れて行く、という無謀な計画なんだから、それを止めようとしてくれているBurdが明らかに正しい。
それでも強行させようとしている私は一体なんなのだろう。
[0回]
忠告を聞き入れようとしない自分の強引さに心苦しさを感じたが、これだけはどうしても譲れなかった。
言葉が見つからなくて黙っていると、わかりました、と声が聞こえた。
「ではどうぞ行かれて下さい」
私はビックリして思わず叫んだ。
「ど、どうしたの!?急に許してくれるなんて」

「殿下が御自分の意思で好きな所に行けるのも今のうちだけですから、それも良いかと思ったのです」
Burdは顔をちょっとしかめて言った。
「ただね、1つ気を付けてくれませんか」
「わかってるわ、殿下は私が絶対守るから大丈夫よ」
「それも重要ですが、貴公自身も用心してほしいんですよ」
「え?何に?」

「本人を目の前にして言うのもおこがましいのですが、殿下にです」
「まーくんに?どーして」
意味がわからなくて私は尋ねた。
「あの爺さんの訪問後から、殿下は変わられてしまいましたよ。何かふっきれて、元々何をしでかすか解らなかった方が余計・・・」
「私のどこが変わったのだ。お前をおちょくるのが好きなのは永遠に変わらないぞ」

「ああ、それはどうせ変わらないでしょうな、って永遠にですか(泣」
Burdは泣きそうな顔になった。
だが、すぐにいつもの平然とした態度に戻って言った。
「では私は用事がありますのでこれで失礼致します。それではまた明朝に」
Burdは頭を軽く下げ礼をし、足早に去ってしまった。

「随分あっけなく許してくれたな」

マーティンは拍子抜けした様子で言った。
「だが、これで心置きなく部屋に戻って休めるよ」
「良かったわね、殿下。じゃあ私は明日の為に準備してくるわ。殿下はゆっくり休んで下さいな」
私はマーティンの側を離れ、準備の為に別の部屋に行こうとした時、マーティンが私を呼び止めた。
「待ちなさい、どこへ行くんだ。準備など明日になってからでいい、君は私の側に居てくれ」

「え?私を連れて行こうとしたのはBurdを説得するための演技でしょ?」
「・・・違うよ」
マーティンは苦笑いした。
「あ・・・えっと、わかった、私を問い詰めたいのね。伯爵のことちゃんと説明するわ。なんなら今度伯爵に殿下を会わせてもー」

「だから違うんだ、そういう事ではない」
マーティンは頭を振った。
「何も言わずに来てくれないか。君が居てくれれば、悪夢など怖くない。見たとしても、君が必ず助けてくれるだろうからね」
「ま、待ってよ殿下。私、悪夢から助ける方法なんて知らないわ」
「側に居るだけでいいんだ。それだけで私にとって救いに・・・安らぎになるんだよ」
安らぎって・・・その言葉を聞いた私はなんだか妙に気恥ずかしくなり、顔が赤くなった。

私がモジモジして返事を渋っていると、マーティンが不安そうに声をかけてきた。
「友よ、どうしたのだ。嫌なのか?無理に来てくれとは言わないが・・・」
「い、嫌じゃないわ!」
慌てて否定した。
「本当だとは思ってなかったから、気が動転してしまって・・・私が側に居ることで殿下が落ち着くのなら、行きます」

「・・・そうか、ありがとう」
マーティンは安心したらしく顔が綻んだ。
「Burdにフラれてしまったのは残念だが、時が経てば奴も気が変わるかもしれないな。ふう、疲れたよ、早く横になりたい」
フラフラしながらマーティンは部屋の方へと歩き出した。
「え~!それって殿下、さっきBurdに言ってた口説き文句は本気で言ってたの!?」

もしかして来てくれるのは私じゃなくても良かったのかしら><
答えてくれないまま扉の向こうへ消えてしまったマーティンの後を、私は追いかけていった。
PR