私は気配を悟られて目を覚まされないよう、横になっている伯爵の顔をそうっと覗き込んだ。

こんな近くに顔を寄せるのは初めてじゃないかしら。
普段は近寄ろうとしても、伯爵は照れて離れちゃう。
でも、今日はこの通り、伯爵ったら隙だらけ・・・。
スニークスキル鍛えておいて良かったわ。
素敵な気分で目覚めるようなコトをして差し上げなくては。

やはりここは乙女キッスの出番しかないわね(・∀・)
伯爵の唇は私が頂いたわ・・・オホホ。
[2回]
私は伯爵が寝ているベッドに身を乗り出して、顔を近づけた。
そうっと、そうっと・・・。

もう少しで伯爵の唇が奪えるわ、と思った時、ついウフっと口から声が漏れ、伯爵に息がかかってしまった。
「・・・んん?・・・なんだ、Hal-Liurzか?」

伯爵が眠そうに目を開いた。
「・・・」
伯爵は寝ぼけていて状況が飲み込めないのか、じっと私を凝視したまま微動だにしない。

あまりに長い間固まったままになっていたので、私は優しく声をかけてあげた。
「は・く・しゃ・く♪えへっ☆おっはよーございます☆ウフっ♪」私が声をかけ、伯爵はそこでやっと何が起きているのかを理解したらしかった。
「×○▽■¥#Щ!!!」声にならない悲鳴を上げて、伯爵は私を押しのけ、ベッドから飛び起きた。

「まあ、伯爵ったら、そんな飛び上がるほど喜ばれなくっても宜しいのに」
伯爵は動悸を抑えようとしているのか胸の前で腕を組んで、ガタガタと震えていた。
「きっ、君はアフォか!!誰が喜んでいるだと?!目が覚めていきなり目の前にストーカーエルフの顔があったら死ぬほど、お・・・驚くのがあたりまえだろうがっ!!・・・は・・はあ、はあ」

伯爵の声は怒っていたが、よく顔を見ると今にも泣きそうな表情になっている。
目は、なぜか涙目だった。
ちょ・・・ちょっとやりすぎたかしら。
「伯爵、そんなに怯えないで下さい。私のライトな乙女キッスで目覚めさせてあげようとしただけですわっ。有り難く受け取って下さったって」
「冗談じゃない、そんな起こし方はやめてくれ!どこの世界にお前の恐怖のストーカーキスで起こされて喜ぶ輩がいるというのだ!!」
「えー>Д<!?その言い草はあんまりですわっ!私と伯爵の仲ならそれくらい・・・」
伯爵は眉間に皺を寄せて本気で怒り出した。
「お前とそんな仲になった覚えはないっ!!それに私には妻がいるんだぞ?君のやってることはただのストーキングだと、どうしてわからんのだっ!」
妻?( ゚Д゚)「ええええ~~~ッ!伯爵、奥さんいたの~~!?」

私は驚きのあまり思わず仰け反った。
きききき聞いてないわよっ!伯爵に奥さんがいたなんてっ!!「いるに決まってるだろうが、もしかして知らんかったのか?」

私が派手に驚いたのに意表をつかれた伯爵は、怒りを忘れたのかキョトンとなった。
「まあ、妻が人前に出ることは絶対にないからな・・・独り者だと思われていたのは別におかしくはない」
私は伯爵に奥さんがいるというのを知って、頭をハンマーで殴られたぐらいの大ショックを受けたが、それくらいでへこたれるMiariさんではない。
「伯爵ッ!」
「な、なんだね」
「そんな小さなこと、私達の愛の前では何の障害にもなりませんわっ!奥さんがいようが私は全然気にせず伯爵のこと愛し続けますっ、だから伯爵も私をッ」

「・・・少しは気にしてくれんかね。立ち直るのが早すぎるぞ君は」
伯爵は呆れてすっかり怒りを忘れたらしく、ふう、と溜息をついて、ぼそりと口を開いた。
「で、何の用で来たのかね?執事を通さず私の寝室に押しかけて来たぐらいだ、用件があって来たんだろう?」
「そうそう、そうなんです。伯爵何かお困りになってることがおありなんでしょ?宜しければ私が相談にのらさせて頂きますわっ」
伯爵はそれを聞いて目が丸くなった。
「なぜそんなことを知っているのだ。誰かが口を滑らせたんだな・・まったく。まあいい、実は私は、今話した妻のことで長年悩まされていたのだ」
「あら、奥さんがどうかされましたの?」
伯爵は私を先にまじまじと見てから、困った顔をした。
「私が君に以前バンパイアになれと言った時、頑なに拒んだことがあったな。あれはなぜだ?どうしてバンパイアになりたくないのだ」

「なぜって、興味がないからですわ。力は得られるかもしれないけど、デメリットが大きすぎますもの。顔は怖くなるし・・・伯爵はバンパイアでもいいお顔ですけど、女にとってはそれって致命的よ。それに、食べ物が血だけになるのも嫌だわ、あと私、朝起きて夜寝る規則正しい生活送らないとすぐ体調崩すの」
「・・・そうか、なるほどな・・・」
伯爵は頷いて、再び溜息を付いた。
「なぜ妻が自分の運命を否定してあのような状態になったのか今のでわかった気がするな」
「伯爵の奥さんもバンパイアなの?」
「そうだ」
伯爵は苦渋の表情を浮かべながら答えた。
「もう50年ほど前になるが、私と妻は旅行中に吸血鬼に襲われ感染し、それになってしまったのだ。私は運命を受け入れたが、妻はそうではなかった。それ以来何も口にせず、死ぬことも出来ない生きた屍のような状態を送っている。私はその苦しみから妻を開放させてあげたいのだが・・・」
伯爵は言葉を詰まらせた。
「バンパイアを治療する方法はありませんの?」
私は暗い表情で俯いてしまった伯爵が心配になって、言葉を気遣いながら訪ねてみた。
「うむ、それだが、存在しないこともない。私は密かに治療法を調べていてな、治癒能力に優れているある魔女の存在を知ったのだ。その魔女なら何か知っているかもしれん」
「ではその魔女さんにお願いして伯爵の奥さんを治してもらいましょうよ」
「・・・私が動くわけにはいかん。頼める相手がいれば・・・そうだ、君にそれを頼んでもいいだろうか」
「はいっ!はいはいっ!伯爵のためならなんでもしますわっ!」
私が速攻で目を輝かせて二つ返事で答えたので伯爵は驚いたが、すぐにホッと和らいだ顔になった。

「そうか、それは助かる・・・もし上手くいけば、どんな小さなことでも私は君に報いるだろう」
「やたー!それってつまり、なんでも私のお願いを聞いてくれるってことですわねっ>▽<」
「そこまで言っておらん。が、私に出来るだけの礼はしよう・・・こっちへ来なさい」

そう言って伯爵は本棚がある部屋の隅の方に私を連れて行った。
「魔女のいる場所は確か・・・ふむ、資料は、と・・・」
伯爵はしばらく私を待たせたまま考え込んでいた。

「ああ、Corbolo川の近くだったな、思い出した。君の持っている地図に書き込んであげよう」
私が地図を手渡すと、伯爵はそれに魔女の家がある場所をマークした。
「大変だと思うが、宜しく頼む。この問題が解決すれば、私も心の荷が下りて楽になるだろう」

「はい、伯爵、それでは行って参りますわっ>▽<」
「・・・君・・・1つ言いたいことが・・ああ、いや、なんでもない。後は頼んだぞ」
伯爵は何か言いかけたが、私の顔を見るとなぜか言うのをやめてしまい、私を送り出すと再びベッドに戻って眠りについてしまった。
お使いは正直めんどくさそうだけど、伯爵のためならなんだって楽しくやれるわっ♪

私はウキウキしながら魔女が住む場所へと向かったのだった。
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