斜面を見下ろせる所まで歩いて来た時だった。
なんと、見るからに危険そうな猛獣と鉢合わせしてしまったのだ。
うわぁぁぁぁ!!
私は驚いた。
いや、驚いたという程度のものではない。
足がすくみ、体が震え上がり逃げることさえ忘れてしまうほどの恐怖を感じた。
もうだめだ、私はこいつに喰われてしまう!

私は両手で防御しつつ(無駄な行為だが)目を閉じた。
ガブリっと頭から食べられてしまうのか。
さようなら、我が家族よ・・・。
せめて最後に成長した子供達の顔を見たかった。
人生の最後が辞世の句も詠めずに終わってしまうとは、なんとあっ気なく悲しいことなのだ。
宇宙を自分の庭の様に自由に駆け巡ってきたキャプテン・リアミーとしては隕石にぶつかって宇宙の塵にでもなって散った方がまだマシ・・・おや?
いつまでも猛獣に噛み付かれる気配がない。
恐る恐る目を明けた。
[0回]
目の前で、なんとあのカボミンが戦っていた。

小さな体で、私を守ろうとするかのように一人勇ましく戦っていたのだ。
カボミンは自分の何倍もある巨大な猛獣相手に、小さな剣で必死に奮闘していた。
攻撃が当たって地面に叩きつけられても、傷だらけになっても、何度も起き上がりひたすら猛獣に立ち向かっていた。
私は冷や冷やしながら彼らの戦いを見守っていたが、勝利の女神はカボミンに微笑んだのだった。

こんな猛獣を1人で倒してしまうカボミンとは一体何者なのだろう。
彼を怒らせたら恐ろしいことになりそうだ。
息絶えた猛獣は斜面を力なく転がり落ちていった。
カボミンがそれを追いかけていったので、私も後を追った。
カボミンは猛獣の横に立ち、指差して何かを言っていた。

何を言っているのだろう。
これを食えと言っているのだろうか。
調理器具もないのに無理だ。
それに、この種の生物は私が食べられる物ではない。
せめて魚や果実の種類でないと、とても・・・。
私は食べられないとジェスチャーでカボミンに返した。
するとカボミンは、これは自分が食べていいか?とでも言いたげに猛獣と自分を交互に指差しながら訴えてきた。
どうやって食べる気なのだろう。
食べるのは別にかまわない。
私はカボミンにどうぞ、と手を振って答えた。
カボミンが猛獣に向かって大きく息を吸い込んだかと思うと、それはブラックホールに吸い込まれるように小さなカボミンに向かって、あっという間に吸収されてしまった。
私は呆気に取られた。
な、何が起きたんだ?
どうなっているのだ?
カボミンの体は・・・。
カボミンは小さくげっぷをすると、ぺぺぺぺぺとスイカを食べた後の様にタネを周囲の地面に吐き出した。
そのタネが落ちた地面からはすぐに葉が生え、花が咲き、そして実がなった。

カボミンは、その実を彼の時と同じように引っこ抜いて欲しそうな顔をした。
私は五つのカボチャを引っこ抜いた。
・・・やはり、引き抜いたカボチャにはどれも体が付いていた。

彼らは最初のカボミンと同じく、ぼーっと私を見つめていた。
どうやらカボミンはこうやって仲間を増やす生物なのだろう。
視線が離せず、なんとなく見つめ合っていると、背後から獣の唸り声が聞こえ、別の猛獣が襲ってきた。
敵を見たカボミンは、何かに取り憑かれたように我先にと一斉に剣を抜いて立ち向かっていく。

1人でも強いカボミンがこれだけいれば、どんなモンスターも怖くはない。
カボミンたちはすぐに退治してくれ、私はホッと胸を撫で下ろした。
彼らは皆私の後を付いてくる。

一匹しかいなかったカボミンが、短時間でこれだけ増えてしまった。
彼の仲間が増えるのは案外見ていて楽しいかもしれない。
それに、これでモンスターの襲撃に怯えることはもうないだろう。
ぐぅぅ~。
お腹が鳴った。
空腹だったのをすっかり忘れていた。
早く食料を見つけなくては・・・。
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