最近どうも張り合いがない。
1人で行動するようになってからは、思う存分好きなことを自由に行動できるのに、何をやっても心のどこかで空しさを感じている。
そうだ、マーティンの所に行って、お話でもしてこよう。
きっとそれで気が晴れるわ。
私はまだ夜が明けきらない暗い早朝にクラウドルーラー寺院を訪ねてきた。

辺りは静かで誰もいない。
しばらく待っていれば、起床したマーティンがここを通るだろう。
私は中には入らず、扉の近くでブラブラして時間を潰すことにした。
[0回]
東の空が明るくなり、空に浮かんでいた星の瞬きが消え去った頃、マーティンが別棟の扉から現れた。
「おや、おはよう我が友よ。こんな朝早くから訪ねてくるなんて、めずらしいな。何かあったのか?」

マーティンは私を見ると声をかけてきた。
「こんな朝早くからごめんなさい、あの・・・」
なんだか言い難いので言葉を詰まらせてしまったが、マーティンは私が何か言いたい事を察したらしい。
「どうやら話し難い事の様だな。少し外で話をしようか、おいで」
マーティンは私を連れて、庭の隅へと来た。
「どうしたのだ?私には遠慮せずなんでも言って構わないから、話してくれ」

「あ・・えっと、実は1人でいるのがつまらなくて、殿下とお話でも出来たらなって・・・」
私はテレ臭かったが、普通っぽく平静を装いながら言った。
「1人でいるのがつまらない?それならBurdと遊んできたらどうかな。Brumaはすぐそこだし、第一、彼は君のいい遊び相手だったじゃないか」
「殿下、Burdを持ち出されても困ります。向こうにも事情があるから、今はまだ会いに行くわけにはいかないんだし。でもつまらないのはどうにかしたくて殿下を頼って来ちゃった」
マーティンはしげしげと私の顔を見て言った。
「・・・素直じゃないな、君は」
「え?」
「君は1人がつまらないのではなく、Burdがいないから寂しいんだろう?素直にそういう事だと私に正直に言えばいいのに、なぜ意地を張って強がろうとするんだ」

「強がってはいないわ><Burdは関係なく本当に1人がつまんないだけよ」
私の言葉を聞いたマーティンは意外そうな顔をした。
「そうか?私自身がBurdが寺院にいなくなってから寂しいなと思っていたのだが」
「え・・・どういうこと?」
「言った通りだよ。私はBurdがいないと面白くないから寂しい。君がそう思ってなかったとは残念だな」
「なぜ殿下がそんなこと」
「彼は、気さくで親しみやすいからね。どうしても私に対して皇帝としてしか見ることが出来ず畏まってしまうブレード達とは違って、Burdに対しては私は素で接する事ができるんだ。ああいう気楽に友として付き合えるような人物がやはり1人はブレードとして側に欲しいものだな」
えー!伯爵だけじゃなくマーティンまでBurdを狙ってる?
どうしてこんなにBurdってモテモテなのかしら。(いいなー
マーティンの前で意地を張っても仕方がない。
正直に話した方がいっか~。
「ええ、殿下の言うとおり、Burdが帰ってしまってからは1人であちこちを旅して来たけれど、やっぱりいないと寂しいのよ・・・」
敢えて言ってみたが、顔から火が出そうなぐらい恥ずかしかった。

マーティンはにっこりと笑って頷き、私に言った。
「私が共に旅をすることが出来ればいいが、今ここを離れるわけにはいかない・・・そうだ、君にお使いを頼むことにしよう」
「お使い?」
「簡単さ。君なら苦もなくやれるだろう。だが退屈はさせないと約束するよ」
「わあ、どんなことかしら。ワクワクするわ」
「Kvatchからここへ来た時、Akatosh教会に忘れてきた物があるんだ。大事な物だったのでどうしても取り戻したい。それを取りに行ってもらえないだろうか」
「行くのはもちろん構わないわ。殿下の大事な物ってなんですの?」
「日記だよ」
「日記?」
「Akatoshで司祭をしていた時に毎日の出来事を記すのが日課でね。その日記と、もう1つ・・・多分日記と一緒に側に置いたままだったと思うが、変わった形の宝石があるはずだからそれも頼む。珍しい形だから見ればすぐわかるはずだ」
「いいわよ、教会のどの辺りにあるかわかる?」
「地下の小部屋のテーブルの上に置いたままだったと思う。くれぐれも忠告しておくが、日記の中身を覗いてはダメだ。あれを見られたら確実に君の私を見る目が変わってしまう」
「・・・殿下、一体どんなことを書いてるの?」
「内容は日常を書いた物だから目新しい事は何もない、が・・・読んだら『こんな人物が皇帝になるなど世も末だ、Cyrodiil終わったな』と感じてしまうはずだ。だから私の為にも君の為にも絶対、絶対だぞ?見てはいけない、いいね」
うわぁ・・・そこまで言われると逆に読みたくなるんですけど・・・。
私は日記を読んでみたい好奇心が顔に出てついニヤケそうになった。
必死で普通の笑顔を作ってごまかす。
「わかったわ、Kvatchに行って来ます。私に機会を与えてくれてありがとう、マーティン殿下」
「こちらこそ急な頼みを聞いてくれて助かるよ。では私は中に戻ろう、道中気をつけなさい」

そう言ってマーティンは私の側を離れた。
私は寺院へ戻っていくマーティンを見送った。

私はKvatchへとやってきた。

最後にここへ来たのはいつだっただろう。
随分前の事だったはず。
誰もいない廃墟と化したKvatchには陰気臭い雨がしとしとと降り続いていた。
Akatosh教会に入っていく。

中は真っ暗だった。
不気味なほど静まり返り、耳を澄ますと外で降りしきる雨の音だけがサァーとかすかに聞こえてくる。

マーティンにとってはここが我が家だったのよね・・・。
何も言わないけど、きっと帰りたいと思っているんじゃないかしら。
私はそんなことを考えながら、地下への階段を下りていった。
灯された明かりを頼りにすすんでいくと、突き当たりに小部屋があった。

奥のベッドがある暗闇の辺りで、何かがキラリと光った。
ベッドに近づいてみると、脇にある小さなテーブルの上に、綺麗な石と本が放置されたままになっていた。

これだわ。
マーティンが言っていた日記と宝石。

じっと日記を見つめていると、マーティンに言われた言葉が頭の中を過ぎった。
『絶対、絶対だぞ?見てはいけない、いいね』み・・・見たい(´д`;)殿下はどんなことを日記に書いているのかしら。
今見ても、後で見てないフリすればきっとバレないわ。
ようし、ちょこっと覗いちゃえ。

私は日記を開いた。
『今日、礼拝に訪れた民たちにAkatoshの教えを説いたが、寝ている奴が必ず数人はいる。何の為に来ているんだ。私の話がつまらなくて寝てしまったか?説教が下手で悪かったな。
・・・・
悩みがあるので相談したいという民の相手をした。いつも思うが、私に打ち明けるよりまず当事者同士で話し合えと一度言ってやりたい。私が何か助言しても結局決めるのは本人だろうが。
・・・・
今日もまただ。いい加減相談を持ち込まれるのが苦痛になってきた。なのに次から次へと問題を私に持ち込んでくる。泥沼になるのが嫌ならなぜ浮気などするのだ。ああ、もっと楽しく心躍るような懺悔を告げに来る者はいないのか。
・・・・
教会に週一度の祈りを捧げに通ってくる老人がいるが、いつも彼の頭の見事な光具合に目が奪われる。
髪に関しては悩み無用の私だからか、あの男らしい頭部には少し憧れてしまう。
・・・・
今日の食事は恐ろしく不味かった。何でダシをとればあんな不味いスープが作れるんだ?食事ぐらいストレスなく取らせてくれ。これなら自炊した方がまだマシだ。
・・・・
おいおい、追徴課税なんて聞いてないぞ伯爵。やり方が汚さ過ぎる。教会への寄付が多かったから目をつけたな。
憶えていろ、今度礼拝に訪れた時に裏に呼び出して長時間説教してやる。
・・・・
Akatoshの司祭が私だけになってから、どうも民達から過剰に頼られるようになった。
私は彼らが思い描くような立派な善人ではない。
本当の私を知ったら絶対引くぞ、君らは。
もしや私は、優しくて親しみやすく頼りがいのある司祭様とでも思われているのだろうか、冗談じゃない、困ったものだ』日記には殿下から想像出来ないような愚痴だらけの文が、つらつらと書かれていた。
私は想像以上に内容が面白くてつい時間も忘れて読み耽ってしまった。
パラパラとページを捲っていくと、後半の途中からは白紙になっていた。
その白紙になる直前の内容に私は目が留まった。

最後のページだけは日記のほぼ全体を占めていた愚痴ではなく、普通の文章で書かれていた。
・・・何かの魔法を殿下は試したがっていたようだ。
日記の側に置いてあった宝石が、もしかしてドラゴンジェムなのかしら。
わからないけど、殿下に頼まれていた物だからこの日記と一緒に持っていかなくっちゃ。
私はKvatchからクラウドルーラー寺院に戻ってきた。

喜んでくれるかな、マーティン殿下。
「殿下ー、日記と宝石ありましたよ。これですよね」

私はAkatosh教会で見つけた日記と宝石をマーティンに渡した。
「ああ、そのまま無事にあったのか、よかった。もう取り戻せないだろうと諦めていたので手元に戻って嬉しいよ」
マーティンは笑顔でそれを受け取った。
私はそこでつい口を滑らせてしまった。
「その綺麗な石がドラゴンジェムなんですか?」
マーティンの顔からふっと笑みが消え、強張った表情になった。
「・・・日記を見たのか」

私に背を向け、ボソっと低い声で唸るようにマーティンは言った。
「え?あ!しまっ・・・ごめんなさい、あわわ、読んだのは最後の方だけです><どうしても気になって、好奇心で最後だけちらっと・・・!」
「いや、全部読んだね。君の言い訳する声が見事に裏返っているぞ」
「こここ、声は元々こういう声よっ、全部読んでなんかもいないわっ」
「嘘だな、目が泳いでいる」

「なぜ反対向いてて私の目が泳いでるって解るのよ、あわわ・・・」
「この件について君に話がある。部屋に行くからついて来なさい」
マーティンは怖い顔をしたまま、私に言った。

怖いが逃げるわけにもいかない。
私は泣きそうになりながらマーティンの後についていった。

うわー、説教されるのかなあ・・・怖いよーTT
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