「これはいつ頃から使っている?」
マーティンはダガーを興味深げに裏表に返し見ながら私に尋ねた。
「ええと・・・いつからだったかしら。もうずうっと前に手に入れたダガーなので、憶えていないわ。使いやすくて気に入ってるからそればかり使ってるけれど」
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「そうか、このDaedric Daggerは良く使い込まれていて、不思議なことに同種の物とは違う変化が現れている様だ。これは、珍しい・・・」
「あら、そうなの?私、ただそれ気にいって愛用しているだけで、そういうのは気が付かなかったわ。でも、攻撃受けてどこに落ちたのかわからなくなった時なんか、絶対見つけるまで捜してるの」
「よい心がけだ、それでいい。これは良い物だから大事にしなさい。見せてくれてありがとう」
マーティンは丁寧に礼を述べ、私にダガーを返してくれた。

「友よ、今日は本当に楽しかった。今日の事は、私の良い思い出の1つになるだろう」
「殿下に喜んで貰えるなんて光栄です。またいつかご一緒して遊んでくださいな」
私は嬉しくて軽い気持ちでマーティンにお願いした。
「そうだな、また、このような機会があれば・・・な」

神像を見上げるマーティンの横顔に、ふっと愁いを帯びた暗い影が射したような気がした。
「殿下、どうしたの?そんな顔して」
心配になり、思わず声をかける。
「ん?何かな。何か変だったか?」
振り向いたマーティンの顔はいつもと変わらない表情に戻っていた。
「さあ、そろそろ行こうか。ゆっくりしていたいのは山々だが、あまり長居すると目的地に着く前に日が落ちてしまいそうだからね」
「そうですね。Jauffreやブレードにいらぬ心配をかけてしまう前に戻らないと」
すでに日は傾きかけていた。
早く目的地へ向かって、マーティンに頼まれている鎧を取り、寺院へ戻らなければならない。
私は信者と雑談していたBurdを呼んだ。

「Burd、何油売っているのよ、行くわよ」
「おや、殿下との話は、もういいんですか?」
・・・すっかりさっきのこと忘れてるわ。
後でタイミング見計らって急に思い出させて慌てさせようっと。
「いいのよ、そろそろ行かないと時間なくなるしね」

私達はDaedra神像の広場を後にした。
「ここからは下りですから、楽そうだ。次はどこへ行くのでしたかな」
「えっと、どこだったっけ。ここから南の方にあるナントカ遺跡よ。下の方に行けばいいんじゃないかな」
「ナントカ遺跡・・・いい加減ですな。側に依頼主の殿下がいるのだからもう少し考えて物言いなさいよ」
「わかったわよ。場所はだいたい解るんだけど、名前はえっと~・・・」
どこに向かっているのか確認する為に私は地図を開いた。

「あ~、Sancre Torだった。ここからならもう近くよ。すぐ着くわ」
地図上では、すぐ南の方に行けばすぐに到着できるような距離だった。
しかし、この辺りから直行できるような道が周囲に見当たらない。
「道を外れて斜面を下っていきましょう。その方が近いわ」

「そんな道通って大丈夫か?私はともかく殿下が・・・」
「Burd、私は大丈夫だ。友の言うとおりにしよう」
そうマーティンが言ってくれたので、私達は目的地まで斜面を下るルートをとることにした。
「じゃあ、ここから下りていきましょう」
私達は道からそれ、Sancre Torが下方に見える場所から下って行くことにした。

「殿下、足元気をつけてくださいよ。あせらずに下りてきていいですから」
「うむ、こういう場所を歩くのは初めてだ・・・かなり滑るな、おっと」
危なくマーティンは一瞬滑りそうになりよろけたが、体勢を戻して、ゆっくりと下り始めた。
「手を貸しましょうか?見ててとても危なっかしいのですが」
「危なっかしく見えるか?けっこう楽しいぞ」
「ねえ、ちょっと。殿下ばっかり気遣ってるけど私の心配はしてくれないの?」

私が訪ねると、Burdはまくし立てるように言い返してきた。
「貴公の心配する暇があったら自分の心配しますっ。貴公はどうぞ、いつでも遠慮なく蹴躓いて斜面転がり落ちてもらって結構です。くれぐれも落ちる時はSancre Torにぶつからんで下さい。遺跡が破壊されては洒落になりませんからな」
「ちょっとそれどういう意味よ。まるで私が巨大な落石みたいじゃないの。失礼ね」
「貴公はそれくらい丈夫だってことをわかりやすく言って差し上げたまでです。ほら、早く先に行きなさいよ。私は殿下をお助けしながら下りて来ますから」
あら、随分とマーティンに対するBurdの態度が変化したわねえ。
最初は緊張してたのかめちゃめちゃ顔強張ってたのに、今は普通の顔して殿下の相手できてるみたい。
よかった、これでもう殿下のこと苦手だなんて言わないわよね。
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